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その幽霊が現れたのは、とある雑居ビルの2階にある個室だった。
飲食店やマッサージ店など、文字通り色々な業種が雑居しているそのビルの、2階フロアは『占いの館』。
いわゆる、占い師用の貸しブースが入っている場所だ。
女子高を卒業後、大学受験に二度失敗した私は「一浪までは認めたけど、二浪は許さない」という親からのお達しで、大学受験を諦めざるを得なかった。
となれば何かしら職に就いて収入を得なければいけない。実家暮らしとはいえ、一応社会人としての務めを果たさなければと思ったものの、高校卒業から時間が経ってしまっている私には、希望する企業への就職は難しかった。
資格なども特になく、出来ることといったらコンビニやスーパーのレジ打ちくらいか…と考えたところで、学生時代に少しかじっていたタロット占いのことを思い出した。
いつの世も、化粧と占いに女性はお金を惜しまない。「タロットの占い師で生計を立てる」という考えが、ムクムクと湧き上がってきた。
「もしかしたら、そのうち有名な占い師になって、テレビに出たりしちゃうかも。あ、それよりYou Tuberになってボロ儲けとか…」
夢は広がる。絵に描いた餅という美味しい夢が。
「だってタロットカード一つだけで、元手はいらないし。失敗したらまた他のことを探せばいいし」
この考えがまず甘かった。
確かに占いそのものはカード一つあれば出来る。
ただし占い師として開業するには、まず『場所』が必要だ。路面などに机を置いて営業している占い師もいるが、夏は暑いし冬は寒い。
根性なしの私に務まるわけがない。
そこでどこか室内で占いを出来るところを探したが、カーテンで区切られているだけのブースでも、思った以上にお金がかかる。
高校時代のバイト代やお年玉の貯金でなんとかなる、とタカをくくっていた私は、己の甘さを思い知らされた。
さてどうしよう、と未練がましく貸出ブースを調べていると。
………あった。
私でも借りれそうなところが、あった。
デパートの一画などではなく、ビルの占い専用のフロアだ。
しかも、他のブースはカーテンで区切られただけなのに、そこはちゃんとした個室。でもブースより、賃貸料が安い!
……普通ならそこで、何かを察するものだ。
だがその時の私は欲に目がくらみ、賃貸契約に飛びついた。
はたして私は、そこで自分より少しおねーさん世代と思しき幽霊と出くわしたのだ。
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