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幽霊のお姉さんは、ここのビルの近くで事故にあったそうだ。
「いやー、あれはしくったわー」
自分の死因を明るく語り始める。
ある朝の出勤時、電車に間に合うよう走って横断歩道を渡ったら、居眠り運転のトラックにはねられたそうだ。
「運が良ければ、異世界に転生出来そうな話ですね」
「でしょー、なのに地縛霊とか笑っちゃうわー」
事故の瞬間、激しい痛みに死を覚悟したお姉さんは、気が付くと吸い込まれるようにこの部屋に来ていたと言った。
いわく、ここに当時いた占い師は相当霊感が強く、それに引かれたのではないか、ということだが肝心なその占い師は
「『ギャアアア!』と、この世のものとも思えない悲鳴をあげて出て行って、二度と戻ってこなかったの」
だそうだ。
「人をこの部屋に縛り付けた責任をとって欲しいわよねー」
と笑うが、全くもってその通りだと思う。
責任をとって成仏させてあげて欲しい。切実に!
恐怖心を抑えて、おしゃべりに夢中なお姉さんを、こっそり観察する。
幽霊らしくほんのり透けているが、顔立ちはわかる。なかなか美人で、20代半ばくらい。
性格も明るいし、きっと人生を謳歌していたんだろうな。友達もいて、おしゃれなランチとか行って、仕事が終われば彼氏とデートもしただろう。
なのに、いきなりそれを奪われたんだもんね。迷って出てもくるよね。
そんなことをボーっと考えていた私は、お姉さんの声で我に返る。
「ちょっと、A子ちゃん、聞いてる?」
「え、A子ちゃんて何ですか?」
「あなたのことよ。まだ名前聞いてなかったから、A子ちゃん(仮)」
「勝手に人の名前を(仮)なんてつけないでください。私の名前は綾香です」
「綾香ちゃんかー。宜しく!」
「宜しくされたくないです」
そんな私の抗議もさして気にしていない様子で、お姉さんは続ける。
「じゃあさ、綾香ちゃん。私が成仏するの、手伝ってくれる?」
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