カードで未来は見通せない

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 お姉さんの従妹(名前は唯菜(ゆいな)ちゃんと言うらしい)は、恐る恐る椅子に座る。 「それで、占って欲しいことは、何?」 私もベテラン占い師の振りを続けながら、自分の椅子に座った。  部屋の隅にいたお姉さんは私に見える位置に移動するが、唯菜ちゃんにはその姿は見えていないようだ。  私なんか見たくなかったのに見えて、多分お姉さんに会いたいと思っているだろう唯菜ちゃんは見えていない。切ないねえ。  このまま私の目と耳を交換出来ればいいのに。 「占って欲しいこと…えーっと……その……」  いじめの問題というのは厄介だ。  いじめられている方は被害者であるにも関わらず、他人に知られたくない、という気持ちになり、それがまた問題の発覚を遅らせたりする。  ましてや、見ず知らずの人にすぐ「いじめられてます」なんて言い辛いだろう。  私はお姉さんに目配せして 「悩みは、進路のこととかかしら?」 とあえて誘導してみると、唯菜ちゃんもホッとした表情で 「はい、そうです」 と答えた。 「では、今日はスリーカードという占い方で見てみましょうか」  テーブルの上にタロットカードを伏せて広げ、両手でかき回す。適当なところで表面を下に向けたまままとめ、唯菜ちゃんに一度だけ切ってもらった。 「ではこれから、三枚のカードを引きます。これらのカードは過去、現在、そして未来を表します」  唯菜ちゃんの緊張感が高まったのを感じる。 「まずは、過去」 そう言ってカードを一枚めくる。《魔術師》というカードの正位置だ。  カードの意味を言おうとすると、お姉さんが私を遮り「私の言うとおりに伝えて」と言ってきた。 「えー、あなたの過去は… 『20**年〇月×日に、△△区の☆☆病院で生を受ける。兄弟は弟が一人、お父さんは家電メーカーの営業で、お母さんは同じ会社の事務。得意科目は英語で、数学はちょっぴり苦手…』」 「ええー!こ、このカード一枚で、そこまでわかっちゃうんですかああ?!」  唯菜ちゃんは、恐慌をきたして叫んだ。  …ですよねー。
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