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最後に未来のカードをめくる。
《愚者》正位置。
「これは、どういう意味ですか?」
唯菜ちゃんの問いに、お姉さんを見ると、どうぞ、というジェスチャー。
「一から始める、かな。色々なことを経験したうえでの再出発」
唯菜ちゃんは今一つピンと来ていない様子だ。
「未来にこのカードが出たあなたは、強い人だね」
「強い?」
「愚者は、何も持たずに未来を目指す。保証とか武器とか何も持たなくても、一歩を踏み出す勇気がある。そんな感じかな」
「何か、過去に比べて随分抽象的なんですね」
ギクッとしながら、誤魔化す言葉を探した。
「そりゃ過去は既に起きたことだからね。未来はまだ幾らでも変わるから」
「そっか」
唯菜ちゃんの素直さに救われる。うう……
日が暮れる前、少しだけ晴れやかな顔で帰っていった唯菜ちゃんを見送った。
「今日はありがと」
お姉さんが満ち足りたような笑顔で言った。
「あれでよかったですか?」
「勿論よ。恩にきるわ」
静かにその姿が消えてゆく。
「成仏出来そうですね」
「うん。……でもまだ綾香ちゃんのことも心配だけど」
「私?」
「引きずってるでしょ?昔のこと」
「……お見通しなんだ」
「幽霊は何でも知っている」
一つ大きく息を吐くと、お姉さんの目を見て言った。
「大人だから。自分でちゃんとけじめつけるから」
「うん、頑張れ」
その言葉を最後に、お姉さんの姿は完全に消えた。
そして私は古い知り合いの番号に電話をかけた。
あの頃、親の方針でスマホを持っていなかった彼女への連絡は家電だった。
だから私は、今も彼女の携帯の番号を知らない。
トゥルルル、トゥルルル、
呼び出しの音が鳴るたび、勇気が一つずつ萎んでいく。
もう切ろうかと思った時、電話がつながり懐かしい声がした。
「はい、山本です」
「……」
声が出ない。どうしよう、どうしようと思っていると、彼女が呟いた。
「……綾香ちゃん?」
「……はい。綾香です」
ついに観念して答えた。
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