めでたしめでたし

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めでたしめでたし

 そうして、二日目の夜が来ました。アンデルさんはまた、姫達について行きました。二日目も、何から何までおんなじでした。  お姫様達の踊りがはじまると、アンデルさんは 「ピフ、パフ、ポリトリー」と、呼びました。 「二代目さん、こっち」  小人達が呼ぶ声がしました。  声のした方へ行くと、鎖に繋がれて、小人のホルンテおとっつぁんが王子達の靴を作っていました。アンデルさんのおじいちゃんも一緒です。  一年前に捕まって、二人はずっと靴を作らされていたのです。  おじいちゃんは善行を積んでいたので、御使いと天国に行くはずだったのを、ホルンテおとっつぁんが一緒に連れてってくれとすがりついて離れないので、とうとうここに置き去りにされたのです。  ホルンテの分の善行が一つ足らなかったからです。  ホルンテおとっつぁんは、自分のせいだとずっと悔やんで泣き続け、涙の池が出来ていました。  アンデルさんはおじいちゃんと相談し、明日の分の十二人の王子様達には白い靴、十二人のお姫様達には可愛い鈴の付いた赤い靴を作りました。  そうして王子達の靴底の鋲には、たっぷりと“時進みの水薬”を。 姫様達の鈴には“時戻しの水薬”を塗って、音を立てるごとに時が 一日進んだり戻ったりするようにしました。  なんとか夜明けまでに作り終えると、アンデルさんは赤い靴を十二足、音を立てないようマントに隠すと、一番姫の舟に乗りました。 「今日はまた特別に重い」 と漕ぎ手の王子が言うので、一番姫はすっかりむくれてしまいました。 ◇ 「アンデルさん、今日で最後なのよ。もう、理由はわかってるでしょう? お父様に本当のこと言ってお姉さま達をとめて。呪いが解けたら、私達、王子達と結婚する約束なのよ」  一番姫に逆らえないだけで、結婚などしたくない末っ子姫はべそをかいています。 「心配しないで、この靴がうまくやってくれるから」  アンデルさんは、鈴の付いた十二足の靴を渡しながらそう言いました。 「私に出来ることない?」  末っ子姫の必死な目を見たアンデルさんは、 「じゃあね、四つ葉のクローバーを十二本見つけなきゃならないんだけど、手伝ってね」  二人は、夕方までに見つけることができました。 ◇  そうして三日目の夜が来ました。 「あら、今日の赤い靴は、いつもと感じが違うのね」 「つま先がクルリとしてて、鈴がついてる。可愛い」  お姫様達は、アンデルさんの新しい靴に大喜び。姫様達の靴の鈴は歩くたびにシャンシャンときれいに鳴ります。  今日がついに一年目。王子達の呪いがとけて、姫様達も一緒に自由になれるのです。  一人浮かない顔は、末っ子姫。アンデルさんが、百人目になるのを心配しているのです。  大丈夫だからと、末っ子姫を安心させて、アンデルさんは姫達の後を隠れて追いかけます。  王子達が姫様達を舟に乗せると、てんでに「今日はなんだか、舟が軽い」と、言いました。でも、アンデルさんの乗った、一番姫の舟だけはやっぱり重かったようです。  お姫様達の踊りが始まると、アンデルさんはおじいちゃんとホルンテおとっつぁんの鎖を外して、物陰からそっと踊りを見物していました。  四人の小人達は、靴の革で紐を作っていました。  シャンシャンと、軽やかに鳴る踊りの輪の動きが、一歩ごとにだんだんと遅くなり、お姫様達の背丈はどんどん縮み、明け方の三時には一番姫は、ついに半分くらいになり、末っ子姫は赤ちゃんにまで戻ってしまっていました。  対する王子達は、ヨボヨボのおじいさんになり床に座りこんだのを、マントを脱いだアンデルさん達に、革紐でしばりあげられてしまいました。  アンデルさんが末っ子姫と取ってきた四つ葉のクローバーを、十二人の姫のおでこにはると、心の目が開けて、初めて王子達の本当の姿がお姫様達に見えました。  死んで肉が腐って溶けた姿に、お姫様達は悲鳴をあげました。  そうして、ブカブカになって脱げた服を、おじいちゃんとアンデルさんと小人達が持って、一番姫が七番姫をおぶって、二番姫が次をおぶって、六組の姫達を三つの舟にのせ、舟を革紐で繋いでみんな川を渡りました。  渡り終えると、御使いが立っていました。  おじいちゃんとホルンテおとっつぁんに 「善行の数が必要なだけ満ちたので、一緒に天国へ参りましょう」 と言いました。  アンデルさんと、ピフ、パフ、ポリトリーは天に昇る二人が見えなくなるまで、ずっと手をふりつづけました。  アンデルさんは、帰る途中ダイヤモンドの枝と、金の枝を証拠に折り取りました。すごい音がしましたが、誰も文句を言いませんでした。  お城に戻ると、アンデルさんは“時進みの水薬”で、お姫様達を元に戻してやりました。 ◇  さて、王様にお答えをしなくてはならないときがきました。アンデルさんは、三本の枝と杯を、前掛けのポケットにいれて、王様の前にまかり出ました。十二人のお姫様も神妙に控えています。  王様がたずねました。 「私の十二人の娘達は、よる夜中、いったいどこで踊って靴をボロボロにしてくるのだ?」 「お相手は十二人の王子様達、場所は地の底のお城でございます」 アンデルさんはそう答えて、何があったのかを、証拠の品じなも出してお話ししました。(姫様達の名誉のため、一部は、語られませんでした) そこで王様は、お姫様達に、「この靴屋の言うことは、ほんとうか」 と問い質しました。  お姫様達は「何もかもそのとおりです」と言いました。  すると王様は、「どの姫を嫁にしたいか」とアンデルさんにたずねました。  アンデルさんは言いました。 「僕は、お嫁さんをもらうには若すぎます。 もっと修行して、一人前になってからにします。  王様になるのも遠慮します。僕は靴屋以外には、なりたくないので。 でも、三日分の靴の代金だけは払っていただきます。かなり高いですよ。  費用の計算が終わったら伺います」  そう言うと、アンデルさんは森に向かってすたすた帰っていきました。 ところが、後ろを振り向くと末っ子姫が付いてきます。  とうとう、森の家まで付いて来た姫は、額に付けたままだった、四つ葉のクローバーを取り、アンデルさんのおでこに付けました。  それで末っ子姫の気持ちが、アンデルさんに丸見えになったので、アンデルさんは末っ子姫を家に入れてやりました。  だから、靴のお代は花嫁料として、“無し”になってしまいました。  残りの十一人の姫達は、てんでに嫁いでいきましたが、神様の罰だったのか、だれ一人、子宝に恵まれませんでした。 い結局、末っ子姫の産んだ十二人の子供達の一番上の兄さんが、次の王様になったのでした。  このお話は今聞いたばっかり。お話ししてくれた人の口からは、ほかほか湯気がたってますよ。              2018ブックショートアワード投稿・2019年3月           原案 グリム童話「小人の靴屋」「踊りつぶされた靴」
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