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波乱の誕生日パーティ
「三回めは、かなり上手くやったの。八十歳まで無事に生きられた。 もう大丈夫だと思って道を歩いてたら、石につまずいて塀の塗替えをしてた人にぶつかり、転んでペンキの缶をひっくり返した。
ペンキの色は赤。私の靴は真っ赤になってた。それを見た瞬間、私の心臓は止まった。コレが三回め。まだ聞きたい?」
「いえ、もう結構です。こんな呪い避けようが無いですよ」
「その通り、私は六回失敗した。今回が七回めの最後のチャンス、失敗は許されない。唯一の救いは、七人が別々に呪いを掛けたせいか、殺し方の手口が全て違うの。前にやられた方法は、二度と起きないからそれは警戒しなくて済む。
だからってどんな手が襲って来るか判るわけじゃ無いけどね」
麗子さんのタバコが燃え尽きて指から落ちた。
「もし、七回目も失敗したら……どうなるんです?」
「魂は地獄に落ちて、赤く灼けた鉄の靴を履いて、世界の終わりが来るまで踊り続けるの。地獄が有るかはわかんないけど、呪いが本物なんだから有るんじゃない?」
僕は言葉を失った。なんという人生なんだ。
「あ、でも良い事もあったか」
そう言って麗子さんは笑った。僕が初めてみる優しい笑顔。
「お前にもう一度会えたもの。私の可愛いシェネベッチェン」
そう言うと、麗子さんは優しく僕を抱きしめた。
心拍急上昇!もう、死んでもいい!
「バカな子ほど可愛いって本当なのねぇ」
心拍急降下……ガッカリ。
腹が立った僕はこう言った。
「でもね、麗子さんだって結構バカ娘ですよ」
「何だと?」
麗子さんに突き飛ばされて後ろにコケながら、なおも僕はこう言った。
「だってそうじゃないですか。 せつかくの成人式の着物も嫌、誕生パーティーも嫌って、麗子さんみたいに綺麗な娘持った父親だったら、自慢したいの当然ですよ。
僕は両親を子供の頃に無くして、お婆ちゃんに育てられたから父親ってどんなかわかんないけど、麗子さんが僕の娘なら絶対そう思います!」
「お前が父親ならそうだろうな」
輝く月明かりの中、麗子さんが逆光で影だけになった。
「でも生憎私の父親は……私の初めの夫とそっくりな奴なんだ」
麗子さんのお母さんは出産後亡くなってる。つまり、守ってくれる人はいなかったのだ。
女の美しさは呪いにもなる。
まさか、転生の度にこの人はそれを繰り返して来たのか?
だから女の呪いから逃げる為に男になろうとしてるのだろうか。
「パーティの日何日だ? 兄貴は、何も知らないんだ。顔立ててやらなきゃな」
「二十一日、麗子さんの誕生日です。二十歳おめでとうございます。僕もだけど」
「今、僕もだけどって言わなかったか?」
「ハイ、僕も誕生日なんです。だからなおさら麗子さんと運命を感じてたんです」
「そーか!タイ行きの飛行機の予定日は、変更だ。最高の誕生日パーティーにしてやるぞ」
麗子さんの邪悪な笑い……嫌な予感。
◇
そして、二十一日。帝国ホテルのパーティー会場に麗子さんをエスコートして入って行くと会場が響めいた。
真っ白なロングドレスに身を包んだ麗子さん。
ハンサムな男は世界一の美女に化けてしまったのだ。
麗子さんと僕は、お兄さんとお父さんの前に立った。
「御招き頂いて参りましたわ、お父様。紹介致します、私の夫の白井雪雄です、今朝入籍しましたの。皆様、祝福して下さいな」
会場から響めきと共に、拍手が沸き起こった。
「麗子、どういう事だ!ワシは何もきいとらんぞ」
驚くお父さんに麗子さんは笑った。
「お父様、私ももう二十歳、成人しましたの。
麗子はもう大人、お父様の子供は卒業です。長い間お世話になりました」
そう言って麗子さんはお父さんに抱きつくと耳元で囁いた。
「あばよクソ親父、あの事黙っててやるから好きにさせな。
さあ、踊りましょう、あなた」
呆然としているお父さんを横目に麗子さんは僕の手をとった。
「い、良いんですか?こんな事して」
僕は、膝がガクガクだった。
「良いのさ。アイツ、まーだ私に未練タラタラで、しつこく言い寄って来てたんだ。証拠のビデオと写真突きつけて、脅迫してやってもまだ諦めないのには呆れたよ。
代わりに、たっぷり巻き上げてやった。車とか、マンションとか、お小遣いとか。ザマーミロ」
「ひえっ!」
怖い、麗子さん怖い。
さすが白雪姫のお母さん、だてに七回も生きてない!
「でも、お前には悪い事したな。戸籍汚しちまって。手術終わって帰国したら、すぐ籍抜くからさ。何しろ私、次に会うときは男になってんだから」
「良いですよ。僕、麗子さんがどんな姿してても大好きですから」
「可愛い事言ってくれるな。御礼に、今夜ここのスイートを取ってあるから 一晩付き合ってやる。
お前みたいなヘタレは、下手すりゃ一生チェリーボーイでお終りだものな。
クソ親父の使い古しだがテクニックは自信あるぞ」
心拍MAX!もう訳わかんない。
「あら、嫌なの?」
麗子さんはちょっとがっかりした顔をする。
「ち、ちがっ、違います。ぜっ、ぜぜぜひおっお願いしましましま〜」
「お馬鹿さん。そうゆう時はこう言の〝Ihr, Frau Königin, seyd die schönste Frau im Land.〟《お妃様、貴女がこの国で一番美しい》」
麗子さんはお月様みたいに笑った。
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