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校内放送、警報、そして山本教諭の説明は人類の滅亡を示唆していた。逃れられない確実な死がそこまで近付いている。
「私たち……私たち死んじゃう。死ぬのよーっ」絵里が奇声を上げた。狂った様にゲラゲラと笑う。それを引き金に教室中がパニックの様相を呈した。
あちこちで悲鳴や叫び声が上がる中、長身の男子生徒が女生徒の一人に抱きついた。女生徒は学年のアイドル、一ノ瀬舞香だった。舞香が体を引き剥がそうと泣き叫びながら身を捩るが、剥がれる気配はない。
抱きついた男子生徒は橘洋介。才色兼備と言われるイケメン優等生であった。
「お、俺は前々からお前の事が好きだったんだよーっ」
洋介は普段の優しく気品溢れる態度を急変させ、舞香の胸を揉みしだいた。イケメンと称された顔面も、今や涎と鼻水を垂らし醜く歪んでいた。
「天罰だっ。これはおボクをイジメていた前ラへの天罰だーっ」そう叫んだのは田辺宗男だった。「死ね、死ね。みんな死んじまえーっ」
宗男が机の上で腰をくねらせて踊っている。無口で影の薄い彼の言葉を初めて聞いた人間も少なくなかった。
「うるせーっ、お前も死ぬんだよ」田崎が宗男の乗った机を蹴り飛ばした。机から転げ落ちる宗男の頭が椅子に直撃し、蛙に似た声を上げて床に転がった。首があらぬ方向へ捻じ曲がり、口から血の混じった泡を吹いている。だが、誰も気にする者はいない。
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