これより十五分後に……

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 絵里が宗男を踏みつけて廊下に飛び出した。廊下は他の教室の生徒達ですし詰め状態だった。肉の壁に跳ね返された絵里は何を思ったのか、窓へ向かってクラウチングスタートのポーズをとった。大声で叫びながら走り出し、窓ガラスを突き破って外へと飛んだ。  この教室は三階。彼女はもう助からないだろうな、と、僕は思った。  二日前、僕は下校途中に黒服の男に声を掛けられた。連れ込まれた黒塗りの車内で、二日後に世界規模のある計画が実行される事を告げられた。  地球上の人類は増え過ぎた。このまま人口が増加すれば近い将来食料危機に陥るだろう。我々は人口を減らす必要がある。戦争、薬害、ウイルス、方法は様々あるが、どれも人道に反する。そこで人為的にパニックを引き起こし、自ら死んでいってもらう事にした。そんな内容だった。  計画の件は各国の政府関係者、一部の富裕層、そしてランダムに選ばれた一握りの民間人にのみ事前通告された。僕は運良く生存を許されたのだ。  山本教諭が意味不明な文字を黒板に羅列している。読み取れた文字はほとんどが放送禁止用語だった。 『残り五分となりました……』  もはや校内放送は聞き取れない。  計画は概ね成功といえた。死に直面した人々は正気を保てず、次々と自滅していく。他人を殺し、自分を傷付け、計画発案者達の思惑通りなのだろう。  ガラスの割れた窓から外を眺めた。町の至る所から何本もの黒煙が立ち昇っている。どこもこの教室内と同じ惨状のようだ。
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