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一人席に座って頬杖をついていると、頭上から生温かい血のシャワーが降り掛かった。見れば洋介が首元に手を当ててよろめいている。首元を抑える指と指の隙間から噴水の如く鮮血が吹き出していた。
「汚い手で触ってんじゃねーよ、このナルシストが」
洋介の傍らで舞香が肩で息をしていた。衣服が破けて露出した胸の前で、赤く濡れたガラス片を握り締めている。開き切った瞳孔がブルブルと震えていた。次の瞬間、彼女は笑いながら自らの首にもガラス片を突き刺して倒れた。
本性を剥き出した人間は醜く、見るに耐えなかった。
『あと……、あと三分です……』
残り三分。この僅かな時間でどれだけの人間が死に行くのだろう。
校内放送のスピーカーから般若心経が流れ始めた。震える声は教頭のものらしかった。時折鼻を啜る音が混じっている。
よし、僕もそろそろ行こう。
僕は立ち上がって窓枠へ足を掛けた。
こんな醜悪な世界で長く生きたくはない。パニックを生き残った人間も、計画を知っていた人間も、僕も、みんな悍ましい本性を内包していると知ってしまったから。
空は青く澄んでいた。鳥たちが呑気に飛び回り、白い雲ゆっくりが流れていく。汚れた地上とは大違いだ。
生まれ変われるなら綺麗な世界が良いな。そう願いながら、飛んだ。気持ちいい。
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