マロンは今日も虹を探す

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 ***  ライチは元保護猫らしい。かつてはご近所で他の野良猫たちを相手にブイブイ言わせていたボスだった、とのこと。大怪我をしたところを保護されて保護猫施設に行き、そこで今の主様に会ったのだとかなんとか。  かつてはボスだった分、よく弟分たちの面倒を見ていた。だからワルガキの世話は得意だ、とかなんとか言っていたが。 「てんめえ、ばっきゃろー!」  フッシャー!と彼は僕に猫パンチをお見舞いしてきた。爪はひっこめているとはいえ、顔面は結構痛い。しかも三発連続。 「そこの白いコードは玩具じゃねえつってんだろうが!なんべん言えば理解するんだ、ああ!?」 「だ、だって、気になるし……」 「気になっても手でいじるレベルで留めろ、噛みつくとか馬鹿じゃねえのか!?次やったら、今度は爪出してひっかくぞ!」 「痛い痛い痛い痛いそれは洒落にならなあああああい!」  まあこんなかんじ。  僕がリビングにいる時、彼は本当に怒ってばっかりだった。 「ゴラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!なんでカーテン登ろうとしてんだてめえ!てめえは猫か、いつ猫になったんだ、あああん!?」 「ちょっと待てや……人の話聞いてなかったのか?待てって飼い主言ってんだろうが。エサ貰いたかったら飼い主の前ではヘイコラしてろっつたろうが」 「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?窓の外に出ていいなんて許可出した覚えねえぞゴッラアアアアアアアアアアアアアアア!」 「おい。……俺のお気に入りの枕が破れてんだがよ、誰の仕業だ?」 「人のトイレでトイレしてんじゃねえぞ誰の許可貰ってんだああああああああああああああああああああ!?」 「ぶっ殺すぞてめえ、ゴラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」 「おい。……信号では止まれつったよな。その耳には耳クソでもつまってんのか?爪でほじくりかえしてやろうか?」   僕が散歩デビューしてからは、散歩にもくっついてきて怒鳴り散らすようになってしまった。  やれ車に気をつけろだの、人間の子供に駆け寄るなだの、そもそも人を見たら可愛がってほしいからってすぐに前足上げてとびつくなだの、植え込みのウンチは踏むなだの、急に立ち止まって拒否犬なんか発動すんなだの。  僕は理不尽で仕方ない。なんで飼い主は、こいつを好き勝手させているのだろう?  人間に、犬や猫の言葉がわからないというのは知っている。しかし、だとしてもいつもライチが僕に怒鳴ってばっかりということには気づいているはずだ。散歩の途中でも、僕がちょっと失敗するたびに猫パンチをかましてくる徹底ぶり。確かに彼の方が先輩かもしれないが、どうして注意しないのだろう。  しかも、猫は犬と違ってリードつけずに散歩していいのだ。この扱いの差はなんなのか、あまりにも理不尽すぎる。 「主様、あいつ超横暴だよ!乱暴だよ!暴力猫だよ!ちゃんと注意してよ、僕いっつも怒鳴られて嫌な思いしてんだからあ!」  僕がわんわんわん!と吠えて主様に訴えても、彼女はにこにこするばかり。仕舞いには。 「仲良しになってくれてうれしいわ」  こんなことまで言い出す始末。  僕とあいつの、一体どこをどう見たら仲良しに見えるのか、まったく意味がわからない!
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