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僕がもうすぐ一歳を迎える、六月の事。
梅雨のせいで、連日雨が続いていた。僕は窓際に座って、いらいらと窓枠をひっかく日々である。
「ああもう、雨嫌い雨嫌い雨嫌い雨嫌い。なんで世の中雨なんてもんがあるの?」
「なんだクソガキ。そんなに雨が嫌いか」
最近、ライチは寝ていることが多くなった。寝床から顔だけ上げて相変わらずの不遜な態度で僕に言う。
「ま、わからなくもねえがな。毛が濡れるのは不快だ、風呂を思い出すしよ」
「わかってんじゃん。僕はお前よりふかふかしてるから、余計雨に濡れるのが嫌なんだ。人間は毎日よく風呂なんかに入れるよね。マゾなのかな」
「それが人間の習慣だからな、風呂は仕方ねえ。あいつらは毎日入らないと不潔になるんだとよ、俺らみたいに毛づくろいできねえしな」
「ふうん」
忌々しいが、ライチは僕よりたくさんのことを知っている。人間について、主様について、世界について。僕が質問すると、大抵ちゃんと答えが返ってくるのだった。まあ、いつも口は悪いし、“そんなことも知らねえのかクソガキ”とか余計な一言がおまけでついてくるが。
「雨はな。俺も嫌いだしお前も嫌いだが、でもこの世界には必要なんだぜ。でないと、地球が干上がっちまうからよお」
ふああああ、とあくびをするライチ。本当に、最近彼はぐだぐだしすぎである。
「俺らが毎日普通に水が飲めるのも、雨がたくさん降るからなんだ。特にこの国は雨が多いことで有名だしな。水不足になることがほとんどねえ、実に恵まれた国なんだぜ」
「そういうもんなのー?」
「ああ。それに、雨が降るといいこともある。そうだな、もうすぐ梅雨も明けるし、それまで待っておけよ」
よいしょ、と彼は緩慢に立ち上がった。お皿の前まで行き、ぴちゃぴちゃと用意されていた水を飲む。
最近彼はちょっと水を飲むのが下手になった。結構あたりに飛び散っていて、勿体ないなと思う。
「雨は嫌なもんだが、雨上がりは悪くないもんなんだ。いいもんが見える」
ライチは濡れた顔でにやりと笑った。
「最近は、俺も散歩にあんま行ってなかったけどな。その日だけは、久しぶりにおめえに付き合ってやるよ。感謝しやがれ、クソガキ」
「だから、いつも一言多いんだってば!」
彼が、僕に何を見せたかったのか。何故、その日は久しぶりに散歩に行くと言ったのか。
この時の僕は、何一つ予想できていなかった。
「あら!」
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