マロンは今日も虹を探す

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 ***  僕がもうすぐ一歳を迎える、六月の事。  梅雨のせいで、連日雨が続いていた。僕は窓際に座って、いらいらと窓枠をひっかく日々である。 「ああもう、雨嫌い雨嫌い雨嫌い雨嫌い。なんで世の中雨なんてもんがあるの?」 「なんだクソガキ。そんなに雨が嫌いか」  最近、ライチは寝ていることが多くなった。寝床から顔だけ上げて相変わらずの不遜な態度で僕に言う。 「ま、わからなくもねえがな。毛が濡れるのは不快だ、風呂を思い出すしよ」 「わかってんじゃん。僕はお前よりふかふかしてるから、余計雨に濡れるのが嫌なんだ。人間は毎日よく風呂なんかに入れるよね。マゾなのかな」 「それが人間の習慣だからな、風呂は仕方ねえ。あいつらは毎日入らないと不潔になるんだとよ、俺らみたいに毛づくろいできねえしな」 「ふうん」  忌々しいが、ライチは僕よりたくさんのことを知っている。人間について、主様について、世界について。僕が質問すると、大抵ちゃんと答えが返ってくるのだった。まあ、いつも口は悪いし、“そんなことも知らねえのかクソガキ”とか余計な一言がおまけでついてくるが。 「雨はな。俺も嫌いだしお前も嫌いだが、でもこの世界には必要なんだぜ。でないと、地球が干上がっちまうからよお」  ふああああ、とあくびをするライチ。本当に、最近彼はぐだぐだしすぎである。 「俺らが毎日普通に水が飲めるのも、雨がたくさん降るからなんだ。特にこの国は雨が多いことで有名だしな。水不足になることがほとんどねえ、実に恵まれた国なんだぜ」 「そういうもんなのー?」 「ああ。それに、雨が降るといいこともある。そうだな、もうすぐ梅雨も明けるし、それまで待っておけよ」  よいしょ、と彼は緩慢に立ち上がった。お皿の前まで行き、ぴちゃぴちゃと用意されていた水を飲む。  最近彼はちょっと水を飲むのが下手になった。結構あたりに飛び散っていて、勿体ないなと思う。 「雨は嫌なもんだが、雨上がりは悪くないもんなんだ。いいもんが見える」  ライチは濡れた顔でにやりと笑った。 「最近は、俺も散歩にあんま行ってなかったけどな。その日だけは、久しぶりにおめえに付き合ってやるよ。感謝しやがれ、クソガキ」 「だから、いつも一言多いんだってば!」  彼が、僕に何を見せたかったのか。何故、その日は久しぶりに散歩に行くと言ったのか。  この時の僕は、何一つ予想できていなかった。 「あら!」
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