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マロンは今日も虹を探す
僕が零歳三か月で家に来た時、家には十二歳になるおじいちゃん猫がいた。
名前はライチ。
灰色っぽい黒猫で、ちょっとだけ目つきが悪くて、いつも金色の目をギラギラさせていたのを覚えている。
「よお新入り。……驚いたぜ、うちの飼い主は完全に猫派だったと思ってたんだがなあ。俺の許可も得ずにワンコロを飼うとはいい度胸だ」
来て早々、僕はライチに嫌になるほど睨まれた。
ちなみに僕はトイプードル。金色の毛が特徴で、もちろんまだ三か月だったから世間のことなんて何もわかるはずもない。
ただ、ここがアナタのおうちよ、と言われてきたらでかいパイセン猫がいて、いきなりガンつけられた形だ。思いっきりびびり散らかしたのは言うまでもないだろう。
「な、なななななな、なんだよう!なんだってんだよう!ぼ、僕の名前はワンコロじゃないぞ。主様が僕のことを“マロン”って呼んでた。それが僕の名前だ、可愛いだろ!?」
「は、女みたいな名前だな、オスのくせによ。ちゃんと金玉ツイてんのか?」
「ついてないのはそっちじゃん-!」
下品な指摘をしてきた当のライチは、とっくに去勢済みである。僕の言葉が気に食わなかったのか、彼はいきなり顔面に猫パンチをかましてきたのだった。
「んぎゃ!」
「こ、こらライチ、駄目でしょ仲良くしなきゃ!」
「うせええええよ飼い主!俺ぁな、生意気な新人に教育してやってるだけなんだ。つか、人の金玉がねえとか余計な指摘しやがって。俺は、俺は、保護されるまで立派なブツが自慢だったってのによお。飼い主のせいで萎んじまって子供も作れなくなって、これがどんだけ惨めなことかわかるかクソガキめええええええ!」
「先にその話出してきたのそっちじゃん、八つ当たりいいいいいい!」
「うっせえよゴラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
まあそんなわけで。
すぐ傍で主様がわたわたしていたのはよく覚えている。
僕とライチの顔合わせは最悪に近かった。ライチはすぐ怒って猫パンチしてくるし、僕の話はちっとも聞いてくれないし。
やっぱり、猫と犬が仲良くすることなんてできない。そういう風に生まれついたのだ。しかもどっちもオス同士だし、と。
その時は、そう思っていたのだ。
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