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青年の言う通り、子猫は雨に濡れて衰弱している。
家に帰りたがらない青年と、今にも命が尽きてしまいそうな子猫。
博臣は一人と一匹を乗せて、自宅へと車を走らせた。
博臣の住んでいる満天町は、平日の昼間はバス二便のまあまあな田舎だ。
車は必須ではなくとも、自転車か原付バイクがあれば、不便はしない。
両親は博臣が大学を卒業し就職すると、テレビでやっていた田舎に住む夫婦のドキュメンタリーに感銘を受けたらしく、こことは離れた場所へ引っ越してしまった。
ここよりも辺鄙な場所に土地と家を買い、仲睦まじく暮らしているようだ。
博臣が教えたおかげでスマホは一通り使えるので、月に何度かあちらの写真が送られてくる。
親から譲り受けた家は、一人で住むにはだだっ広い。
物は整理したが、親のものや大きな家具類はそのまま置いてある。
博臣は弱った子猫を預かると、ずぶ濡れの青年にシャワーで暖まるよう言った。
アイスブルーの目は、腕の中の子猫を心配しているようだった。
服を洗濯機に放り込み、博臣は温かくした濡れタオルと乾いたタオルで、子猫の身体を拭いてやった。
先住猫のために残していたスポイトでミルクを与えてやると、自力で飲み始めたのでほっとする。
「ありがと。あんた、いい人だな」
「え、ああ……どういたしまして」
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