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──トラブルじゃなければいいが……。
扉一枚隔てた向こう側に杞憂する。
しかし、いつまで経っても店長の博臣は、呼ばれる気配がない。
若干気になりつつも、博臣は時間通りに休憩を取り終え、レジのほうへ顔を覗かせた。
「どうしたんだ?」
「あっ! 店長! 今推しが来てて……」
「推し?」
と、言葉を脳内変換するのに多少かかった。
博臣が姿を現すと、「守屋さん!」とワントーン高い声が店内に響いた。
「えっ!? 店長もしかして知り合いなんですかっ?」
「ああ……まあ、猫仲間っていうか」
「猫仲間?」
怪訝そうにするバイトの脇を通り過ぎ、博臣は空閑に声をかけた。
「てーんちょ! 本当に店長だったんだ?」
「疑ってたのか」
空閑は先程博臣が店長と呼ばれていたのを聞いていたのだろう。
眠気を隠せていない表情で、空閑は先日の続き……ショーケースの中のストロベリーケーキから三つを指差した。
博臣はディッシャーでジェラートを掬いながら、少し嫌みっぽく言う。
「裏の事務所まで聞こえてたよ。すごいな、君は。まるでアイドルみたいだな」
「……だったんだけどね」
「……え?」
「うーうん、何でもない。アメちゃん元気?」
「あ、ああ。元気にしてる。動き回って大変だよ」
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