ストロベリーケーキの幸福

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空閑の表情に笑顔が戻り、ジェラートのカップを持って店から出て行った。 いつもは店内に留まる彼の退店に、後方から「えー!」と大きい声が上がった。 目の保養が……と残念がる女子の声が聞こえてくる。 午後七時過ぎ、閉店作業とレジ締めを終えた博臣は、裏手に停めている車へ向かう。 夏の日は、こんな時間でも人の顔が分かるくらい明るい。 影のところに誰かが蹲っているのが見え、確信した博臣はすぐに駆け寄った。 「お、おい……まさか、ずっと待ってたのか」 銀色の髪が揺れ、空閑が顔を上げた。 顎や首に汗が滴っている。それだけの光景なはずなのに、空閑の端正な顔立ちのせいで、博臣の心拍は不思議と速くなる。 「ついさっきだよ。コンビニで涼んでた」 「コンビニって……ここから徒歩だと一五分くらいあるだろ」 つい説教っぽく返すと、空閑の表情が歪むのが分かった。 これ以上は何も追求せず、博臣は冷房を効かせた車に空閑を乗せた。 「あちー」と、空閑はシャツの胸元を引っ張ったりして、冷房の空気を送り込んでいる。 ──アイドル……だったんだけどね、って。 さっきの発言が、博臣には冗談だとは思えなかった。 変に蒸し返すより、博臣はアメの話題を選んだ。
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