ストロベリーケーキの幸福

14/24
前へ
/94ページ
次へ
今のは冗談だと博臣自身理解したが、目の前の男と同じようには笑えなかった。 「何か理由があったんだろ。喧嘩をする理由が」 「単なる行き違いだよ。まあ、先に手を出したほうが悪いよね。他のメンバーも全員見てたし。というか、どっちにしても俺のせいにされてたんじゃないかな。最年少でちょっとハブられてたし」 空閑の口ぶりからして過去のことを後悔している様子は、全くなかった。 地元の高校まで進んで、大学から仕送り付きの一人暮らしを始めた博臣にとって、空閑は違う次元を生きている存在のようだった。 アイドルだったということは、空閑やグループを応援するファンもたくさんいたのだろう。 裏切られた痛みは、きっと博臣には想像できない。 「実はこれ言ったの、親以外に博臣さんが初めてなんだよね。友達……っていうか友達全然いないけど、話せるやついなかったし」 「どうして俺にそんな大切な話を?」 「……さあ? 口が固そうだから?」 「本当に君は。何だかふわふわしてるな」 「そう? じゃあ本性だしたら守屋さん引いちゃうかな」 本性という言葉がやけに生々しく、博臣の心臓は跳ねた。 びっくりしている顔に、空閑は「じょーだん!」と緩い雰囲気の台詞を吐いた。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

561人が本棚に入れています
本棚に追加