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律儀に片耳のイヤホンを外すと、ジェラートのフレーバーを伝える。
身なりの派手な男相手に聞き返したり粗相のないように、博臣は一つ一つを反復する。
トリプルを頼んだ男の視線は、端から端を行ったり来たりしている。
カラコンを入れているのか、瞳はアイスブルーの冷たい色だ。
「あの……」
「うーん……決まんないな。店員さん、何か適当に決めてよ」
と、男は博臣にアドバイスを求めてくる。
一緒にショーケースの中を見回し、博臣は今夏から発売のミントチョコレートを勧めた。
「ん、ありがと」
当たり障りのない微笑を浮かべると、自分の頼んだフレーバー二つとミントチョコレートの入ったカップを持ち、店内のカウンターへ座った。
垢抜けた容姿を抜きにしても、やけに整った顔立ちをしていた。
最近の子らしく、肌は白く高い鼻梁、顔は小さい。
博臣の視線だけでなく、主に女子の視線を引き集めている。
彼はそれらの会話をシャットアウトするように、耳にイヤホンを嵌めた。
「うわあ……推し! 今日は推し見れた!」
「声かけてみなよ」
「えぇー。絶対無視されるって! 遠くから見つめるくらいでいいの」
なんて、黄色い声を浴びながらも、ジェラートを口に運ぶのに夢中だ。
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