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最近の子は「好き」とかいうものを全部引っくるめて「推し」というらしい。
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普段は売上管理や事務作業が博臣の主な業務だが、武井の抜けた穴を埋めるために若いアルバイトに混ざってレジに入っている。
ディッシャーを握るのは久々で、一日数時間の作業でも手首が痛くなる。
閉店後、お疲れさまとバイトの子達を見送ってから、博臣は上への報告書作りなど雑務をこなしていく。
シフト表を見つめていると、腱鞘炎になった腕だけではなくて頭も痛くなる。
あと一週間もすれば武井も戻ってくるので、それまでの辛抱だ。
発注作業をする最中、ふと今日も訪れていた銀髪の青年のことを思い出していた。
バイトの女の子達も帰る間際に、彼のことをいろいろと言っていた気がする。
毎週金曜日に来店することが多く、オーダーするのはトリプルで全て違うフレーバー。
ショーケースの左から順にオーダーしているらしいという情報も共有されている。
彼女達もまた、彼のことを「推し」と呼んでいた。
三〇歳になったばかりの博臣には理解しがたい文化だ。
「推し」どころか好きな相手も恋人もいない。
学生のときに付き合い始めた彼女がいたが、就活が始まりそのまま進路は別々になり、自然消滅した。
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