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トークアプリの名字が最近になって変わっていて、ああ、結婚したんだと、他人事のように思った。
悔しさとか祝福したいとか、不思議なくらいに何も湧いてこなかった。
薄情と言われればそうかもしれない。
人への関心や執着が、普通の人よりも薄いのかもしれない。
武井の追試が終わり、博臣の業務が軽くなると思えばそうでもなかった。
雨の降る日はなく、連日猛暑日が続き、店内に入りきらないくらいの客で店は溢れた。
店内の混雑具合を見ると、客は一様にテイクアウトで注文する。
月二回、新作を出すコンセプトの「Stellato」では、テイクアウトで提供する商品に既製品は使わない。
ふわりとした舌触りを保つためだ。気温三十五度を超えたこの日は、博臣はテイクアウト用の注文をこなすためにほとんど裏方へまわっていた。
夕方になり客足のピークが過ぎた頃、またもや「推し」という単語が聞こえてきた。
客席にふと視線をやると、外の風景を臨むことのできるガラス張りのカウンター席に、彼がいた。
回転するスツールの席は腰掛ける位置が高めで、足をぷらぷらさせて座る人が大多数なのだが、高身長の男は足を組んでもなお余裕で靴底を地面に着かせている。
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