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ストリート系のファッションに身を包んだ男は、小さな木のスプーンで最初の一口目を掬う。
横顔にちょっとした笑窪ができるのが可愛いと、つい思ってしまった。
特に長居することもなく、またいつものように音楽を聞きながら退店していった。
閉店の一時間前、雨が少し降りはじめてきたので、博臣はアルバイト達に早めに帰るよう促した。
予報では小型の台風が夜に通過するらしい。
締め作業を行った後、博臣も本降りになる前に、車で店を出た。
バケツに入った水をひっくり返したかのような、すさまじい降雨量だった。
ついには遠くで雷も鳴りだした。
前後に博臣以外の車はなかったので、悪天候の中、少し速度を落として運転していた。
「あ……」
対向車線の歩道に白くぼんやりとした人影が見えた。
土砂降りの中、傘も差さずに青年らしき人物が突っ立っている。
──もしかして、あの子か……?
確信した博臣は、空き地で車を折り返すと、青年の横へ車を近づけた。
ライトで照らされてからようやくこちらの存在に気がついたようで、しとどに濡れた髪の隙間から、博臣の様子を窺っている。
人工の色をした瞳は、今日はやけに冷たい感じがした。
「どうしたんだ、こんなところで……。ほら、風邪引くから」
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