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やけに明るい声が店内に響いた。
博臣の横の女子学生のアルバイトは、推しの来店にぽかんと口を開けている。
待っていた……訳ではないが、空閑には言ってやらないといけないことが山ほどある。
ここでは言えないけれど。そんな博臣のもやもやした心の様子など、気にもしない空閑はにこにこと相好を崩して話しかけてくる。
「ね、守屋さん今日遅番なの?」
「まあそうだが。朝もやることがあって大変だったけどな」
「え、なに?」
「アルバイトの求人」
ちょっと当てつけも混じっていた。
定時制学校に通う空閑は、午前は暇そうにしているからだ。
送られてくるメッセージの頻度と、ここに顔を見せに来るのが理由だ。
「武井先輩辞めたんだって」
「えー!? 急過ぎ……ショック」
と、博臣の後ろで噂をする声が、こちらまで聞こえてきた。
ジェラートのショーケースを挟んだ空閑の耳にもそれは届いたようで。
髪と同じ色の、細い眉毛がぴくりと動いた。
「え……もしかして、俺のせい?」
「さあ。空閑くんのことは彼、何も言ってなかったけどな」
「守屋さん。隠すなよ。ぜってー……俺のせい」
空閑は自己嫌悪に陥っているが、辞めますというメッセージを受け取った当人でさえ、理由は分からない。
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