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一回り以上年の離れている博臣は、彼らの雑談内容は半分も分からない。
わいわいと騒がしいバイトの集団を送り出し、閉店作業を終えた博臣は、車のキーを取り出しながら駐車場へ向かう。
「店長お疲れ! 今日アメのところ寄ってくね」
「お、おい……勝手だな、君は」
「いつでも会いに来いって言ったの店長じゃん」
また強引に迫られるのではないか、と博臣は身構える。
反面、バイト仲間に普段囲まれている空閑が、自分にこんなにも懐いてくれることが、嬉しいと感じる。
空閑は特別な人間だと、博臣は何となくそう思う。
昔アイドルをやっていたと言っていたのを、素直に信じている。
彼には人をどうしようもなく引きつける引力みたいなものが備わっている。
慣れたように助手席に座り、スマホをいじっている。
窓の向こう側には空閑の原付バイクが、ぽつんと寂しそうに残っていた。
「いいのか、あれは」
「え、どれ?」
と、空閑が外に視線を向けるのと同時に、一人の女の子が、博臣達の様子を外から伺っているのが見えた。
空閑は一瞬表情を歪ませると、博臣の車を降りていった。
「前も言ったけど。ごめん。付き合えない」
空閑がそう言うと、彼女はその場を離れていく。
目尻を手の甲で擦る横顔が、フロントガラスから見えた。
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