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空閑は薄い溜め息と吐いて、再び博臣の横に戻ってきた。
早く出して、と言わんばかりに、前方の遠くのほうを見つめている。
三十路を迎えていい大人のはずの博臣が、目の前で行われた告白シーンに胸のドキドキを抑えられなかった。
──ごめん。付き合えない。
だから何だっていうんだ。
まるでその言葉が自分に向いたかのように、鳩尾あたりがずん……と重くなる。
空閑とそういう関係になることは、望んでいないしあり得ない。
どっどっと鼓動は速く、大きくなる。平静さを装って、博臣は普段はつけないラジオを、車内に流した。
「待って」
ハンドルに伸ばしかけた手を、空閑に絡め取られる。
ぎゅっと博臣の手を握った空閑が、思いもよらないことを言い出した。
「俺、店長のこと。好きだよ」
淡白な告白に、心臓の音は加速する。
いつものような軽口ではないということは、博臣も薄々感じ取っていた。
「騙された?」なんて続いてほしかった。
現状の生活に満足している。恋だって、もう何年もしていない。別にしなくたって困らない。
結婚だって、世間的には「ご自由に」という風潮になりつつある。
だから、別に空閑のことは──。
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