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「俺は……」
続けようとした言葉は、空閑の形のいい唇の中に吸い込まれた。
博臣が胸を押す前に、引き際よく離れていく。思わず温度の残る唇を押さえた。
「困る……! 車の中で、他の子に見られたら」
「いーよ。というか、俺からしたんだし」
「よくない。……あのなぁ、空閑くんはまだ未成年だろ。こういう場合、大人のほうが困るんだ」
「だからそれって、守屋さんが俺のこと襲った場合だろ。あ、そうされんのもめちゃくちゃいいと思うけど」
空閑は不満げに唇を尖らせる。鼻筋、顎のラインが綺麗で、やっぱり元アイドルというのは本当なんだな、と、実感する。
昨日夜更かしして見た動画の中の彼と、脳内に焼きつけたキラキラしたHALが重なる。
「空閑くんは、本当にアイドルだったんだな」
「うん、元ね。……調べた? いろいろ」
「ああ……うん。悪かった」
「俺さぁ、本当はやめたくなかった」
座席に深く背中をもたれた空閑が、呟いた。
「ネットの記事を見たけど、俺にはやっぱり空閑くんが暴力を振るったなんて、信じられなかった。雨の中、猫を助けるくらいだから」
「へへ……バレたか」
車を走らせる中、流れる街灯の灯りに空閑は視線をやる。
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