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ソルティバニラの求愛
空閑を正式にアルバイトとして雇ってから三ヶ月。
出会った季節は半周過ぎ、外へ出るときは厚い上着が欠かせなくなった。
車中で空閑に告白されて以来、特に空閑からは返事を催促されるようなことはない。
アメにはこまめに会いに博臣の家を訪れるが、そのまま泊まったり長居することはない。
夏の日の出来事が、まるで夢だったかのように、二人の間には何も起きない。
その距離感が正しいはずなのに、博臣の胸にはもやもやした消化しきれないものが募っていった。
それは、空閑が同年代のバイト達と仲良くしているのを見る度に、大きくなっていく。
「あ、空閑くん。今日は……」
「ん? 店長どうしたの」
「いや、何でも」
ぷっと空閑は吹き出す。
二人でいるときのような、ほとんど癖のような形で名前を呼んでしまい、失態を晒したことで胸がドキドキした。
「変な店長」
空閑は笑いながらそう言い残し、閉店の作業を進めていく。
今日はうちに来るのか、と改めて聞こうとしたところ、男女の会話が聞こえてきた。
空閑と……バイトの女の子だ。
「え……いいよ。家近いし、悪いよ」
「道暗くなってるから危ないだろ。方向一緒だし、人気のあるところまで帰ろう」
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