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本来なら大人の博臣が気を遣うべきだったかもしれない。
しかし、年頃の女子を車に同乗させるのも躊躇われる。
洗いものを済ませようとした空閑に、博臣は声をかけた。
「いいよ。俺がやっておくから」
「まだ五分あるよ。時間内にできるし」
「送っていくなら、早いほうがいいだろ。ちゃんと時給出るようにタイムカードは切っておくから。それと、敬語」
以前、フィールドマネージャーが店舗の見回りに来た際に、空閑の口調のことを注意された。
それ以来、博臣は空閑に言葉遣いを正すよう言っているが、直った試しがない。
空閑は「はぁい」と気の抜けた返事を寄越した。
「店長、怒ってる?」
「……は? どこが」
「いーや。気のせいだったかも。変なこと言ってごめんね。お疲れさまです」
雰囲気というか空気感を読むことに長けている空閑は、女の子を連れてさっと裏口から出て行く。
自分としては、気を遣ったつもりだった。
早く帰れるように、計らったつもりだった。
──でも、純粋な感情だけじゃなかった。
空閑に図星を突かれて、尖った口調になってしまったことを後悔する。
──妬いてる……? 懐かなかった猫みたいな空閑が、皆に慕われて。居場所を見つけて。
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