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三十にもなって一〇以上も年下のキラキラした青春の真っ只中にいる子供に、そんな感情を向けるなんて。
自制の利かない自分に目眩さえ起こしそうだった。
薄い氷のベールがかかったようなしんとした空気が降りている。
二人は「寒い」と言い合い、手を擦り合わせながら街灯を頼りに歩いている。
どこから見てもお似合いのカップルにしか見えない。
自然と漏れ出た溜め息は、一瞬だけ白く映ってすぐに消えていった。
帰り際、店のパソコンに本部からのメールが届いているのに気付いた。
人事異動のお知らせが、何故か博臣宛の受信箱に入っている。
それは突然の知らせだった。冬が終わる頃、博臣は本部へと呼び戻されることになった。
文字を追いながら脳裏に思い浮かべたのは、アメと空閑の姿だった。
……────。
年明けに、博臣は本部へ異動となることを、従業員達を集めて話した。
代わりの店長……博臣の後任となる男は、三つ下の目良という男だ。
寡黙な男だが話してみるとコミュニケーション能力が高く、博臣は面食らってしまった。
「本当に何もないところですね。ここ」
自分の出身地を悪く言われて、博臣は苦笑した。
「まだ町のほうだぞ」
「えぇ……電車もバスも三〇分に一回しか来ないのに?」
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