ソルティバニラの求愛

6/7
前へ
/80ページ
次へ
博臣が異動のことを公にしてから、空閑との会話は少なくなった……いや、空閑から話しかけられることは減った。 アメを気にかける会話もなくなってしまった。 空閑にはもうどうでもいいことなのだろうか。 だから、アメのことを話すのは空閑を無責任だと非難しているみたいで、博臣の口からは言えなかった。 猫の飼育経験があるおかげか、早々にアメは博臣に心を砕いている。 たまに訪れる空閑相手にも爪や牙を向けたりしない。 アメはもちろん新しい住まいにも連れて行く。引っ越し作業を進めていると、ふと虚無感に襲われるときがある。 新しい環境ややるべきことに向けて気力は注いでいるつもりだが、何か……心を残していくような。 博臣にはどうしようもない引力に、引っ張られるような感触がするのだ。 ……────。 異動の数日前。目良に「ぜひ顔を出してください」と呼ばれ、博臣はその場所へ向かった。 待ち合わせた目良にあっさりと種明かしをされる。 「へっ? 送別会?」 「そうです。店を予約したのもアルバイトの子達ですよ」 「す、すごいな……目良くんもありがとう」 「あともうちょっとだけ、よろしくお願いします」 なんて、他愛もない話をしながら、目的地まで歩く。 予約した場所というのは居酒屋で、博臣は面食らってしまった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

435人が本棚に入れています
本棚に追加