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博臣が異動のことを公にしてから、空閑との会話は少なくなった……いや、空閑から話しかけられることは減った。
アメを気にかける会話もなくなってしまった。
空閑にはもうどうでもいいことなのだろうか。
だから、アメのことを話すのは空閑を無責任だと非難しているみたいで、博臣の口からは言えなかった。
猫の飼育経験があるおかげか、早々にアメは博臣に心を砕いている。
たまに訪れる空閑相手にも爪や牙を向けたりしない。
アメはもちろん新しい住まいにも連れて行く。引っ越し作業を進めていると、ふと虚無感に襲われるときがある。
新しい環境ややるべきことに向けて気力は注いでいるつもりだが、何か……心を残していくような。
博臣にはどうしようもない引力に、引っ張られるような感触がするのだ。
……────。
異動の数日前。目良に「ぜひ顔を出してください」と呼ばれ、博臣はその場所へ向かった。
待ち合わせた目良にあっさりと種明かしをされる。
「へっ? 送別会?」
「そうです。店を予約したのもアルバイトの子達ですよ」
「す、すごいな……目良くんもありがとう」
「あともうちょっとだけ、よろしくお願いします」
なんて、他愛もない話をしながら、目的地まで歩く。
予約した場所というのは居酒屋で、博臣は面食らってしまった。
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