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目良に「送りますよ」と気遣われたが、博臣は学生達と同じようにノンアルコールのドリンクだけを頼んだ。
空閑は透明でしゅわしゅわと泡が浮かんでいる液体を、ぐいっと一気に流し込んでいる。
博臣の家にいるときも炭酸水を、よく好んで飲んでいた。
「お酒飲んだらいいじゃん。酔ってるところ見たかったなぁ、守屋さんの。あ、店長の分。俺が取ってあげるね」
この喧騒の中だったら、空閑が博臣の名前を呼んだことは誰も気付かなかっただろう。
わざとなのかうっかりなのか、空閑の表情からは読み取れなかった。
空閑の分は女子達がこぞって取り分け、一応主役の博臣の分は、一番人気の空閑に取り分けられるという、何ともおかしな状況だ。
和風の創作居酒屋は、久々だった。脂っこい揚げ物や鉄板料理……学生や社会人の頃はよく行っていた。
──戻るんだな、来月から。
短くも長くもないような期間だった。
だだっ広い実家の生活から、また手狭なワンルームへ引っ越すのは、少し残念な気持ちもある。
「美味しい?」
「ああ、美味しい。空閑くんもたくさん食べないと」
料理は大皿で運ばれてきて、食べ盛りがすぐに持っていってしまう。空閑はくすっと笑った。
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