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六日目・探索パート④
空き家の敷地にはいって俺の足跡がないにも関わらず、むきになって探しまわっているのか。
もしくは学校付近は小学生の足跡がいっぱいで、俺たちの足跡との見分けがつかず惑っているのか。
俺の予測では校門のある通りをでたところで追いつかれて、その手が届くか届かないかで、ぎりぎり門扉を乗りこえられるものと思っていたのが。
校門のまえについて振りかえっても、街灯に照らされた寂しげな雪景色しか目にはいらず。
案外、足跡を追うのは難しくて、熟練の猟師などにしかできないのかもな・・・。
なんて、しみじみ思うも、もちろんゆっくりとしていられなく、門扉の格子に手をかける。
俺の身長くらいある高さを乗りこえようとして、口裂け男があとにつづかないのに「あ」とつい声を。
そうだった(結界のある建物でも)目的地なら、俺は踏みこめるが、彼は立ち入り禁止なのだ。
ホラーゲームにあって最大の山場といえる戦慄の夜の小学校を、一人で探索しろというのか。
そりゃあ二人で難関突破したあととなれば、余計に心細いし、まだ一時間ほどしか経っていなく「もう、お別れか」と寂しくもある。
口裂け男も心なしか、心配そうに見つめているに胸が絞めつけられるも「いってくるよ」と気丈にふるまおうと。
「俺は学校にはいったまま、帰ってこない場合も・・・・。
あ、いや、といって、危険な目にあってとかじゃなくて、ええと、課題のようなものをこなしたら家に強制帰還させられるんだ。
とにかく待たせるのはなんか申し訳ないから、待つにしろ、なかなか俺がもどってこなければ、ここを離れていいから。
口裂け女が足跡をたどってきて、小学校の周りでうろつくかもしれないし」
すこし間をおいて、うなずいた彼は、巨体ながら、こじんまりと手をふりふり。
いまだに口裂け女を見慣れず、毎度、盛大にお漏らしをしてしまうが、口裂け男には愛嬌があるように思えてきて。
そんな俺の目には大型犬がしゅんとしながら、控えめに尻尾をふっているように。
あら、やだもう、泣けちゃう・・・!
怪談の巣窟のような小学校で俺がんばれる・・・!
十分に癒してもらって、背中を押してもらい「じゃあ、そっちも気をつけて」と涙をこらえ、門扉を跳び越えた。
校門を跨いだだけだが、あらためて夜の小学校を見あげて、影がかった威圧感たっぷりの佇まいに足がすくんで、ちびりそうに。
俺と口裂け女、口裂け男などの関係者以外、探索パートにはもともと人気がなく。
積雪のせいで、なおのこと空気が重重しく張りつめて、首が絞められるように息がつまる。
つい校門を振りかえろうとして、雪を踏みしめ、歯噛み。
「不安にさせるより強がってかっこつけろ!」と自分を叱咤し、正面玄関につづく道を逸れて校舎の裏側のほうへ。
校舎裏のほうは、あたりの外灯の明かりが届かず、闇に染まっていたに懐中電灯をオン。
足跡がない雪をかき分けて進み、懐中電灯で照らした体育館の端にある扉。
高校で彼女が話したとおりなら鍵はかかっていないはず。
クラスメイトの彼女は、今日、ミキオたちと小学校に肝試しにいく予定だった。
おしゃべりな彼女に「にしたって、どうやって小学校に侵入するの?」と聞いたところ。
「友だちの妹が、その小学校に通っていて体育館の端にある扉、そこの鍵を開けとくっていうの。
扉のむこうは用具入れになってて、もう古くて使わないものが置きっぱで、あまり人が入ったり覗きこまないんだって。
その小学校には宿直の人はいないし。
試しに妹が鍵を開けておいて、次の日、見にいったらそのままだったって云うから。
だったら、もっとトイレに近い場所の扉でもいんじゃない?って思ってんだけど。
先生が帰るまえに、全体的に戸締りを確認するらしくて。
ノーマークの体育館端がうってつけってわけ」
なるほどと思いつつ「うかつな生徒の行いでセキュリティが脅かされているぞ!」と教師に警告してやりたかったもので。
小学校には金目のものを置いていないとはいえ、子供を狙った悪人がなにをしでかすか・・・。
まあ、今回は俺の命がかかっているに大目に見てもらおう。
今夜をやり過ごして生きのこれたなら、匿名の手紙で注意をうながそう。
「すまん」とばかり扉にむかって合掌してからノブを持って回す。
ギギギギと軋みながらも開き、室内は真っ暗。
懐中電灯で照らせば、狭い部屋にところ狭しとガラクタや段ボールが置かれ、それらをよけて体育館につづく出入り口へ。
前世、未来でやっていた「トイレの花子さん」のフリーゲームでは体育館でラスボス戦を。
主人公が持つライターの灯以外、視界ゼロの闇のなか、高笑いを響かせ、神出鬼没に変わり果てた花子さんは襲撃してきて・・・。
「トラウマがよみがえりそう」とげんなりしつつ、おそるおそる重い引き戸をスライドさせると思いのほか明るく見通しがいい。
この体育館は大きい窓が多いし、雪に反射した外灯の明かりが差しこんでいるのかもしれない。
ほっとしつつ、警戒を怠らず、体育館全体が見えるよう壁に背中をくっつけ蟹歩きしていく。
鬼がでるか蛇がでるかと目を光らせて。
トイレの光子さん以外にもし、学校に居すわる霊がいるとしたら一家心中の犯人のお母さんとか?
川辺で見つかった遺体、その口端が裂けていたという。
もしかして、まぎわらしく口裂け女と似た容貌でサプライズ出演して行く手を阻み、襲ってくる?
懐中電灯を消し、影に潜むように移動しながら、いろいろ検討してみて「いや、そりゃないか」とその可能性を除外。
母親は一家心中したかったのであり、逃げた光子さんの息の根を止め、自死もやり遂げて成功をしたのだから思いのこすことはないはず。
たとえ光子さんを殺したことで我にかえり、遅ればせながら悔いたとして、自分の仕業なのだから。
死んでも死にきれないほど自分を責めても、人や世の中に責任転換して八つ当たりはしないだろう(と思いたい)。
母親よりも七不思議などに登場する走る人体模型とか、うろつく二宮金次郎とかをお目にかかるかも。
しまった!小学校のほかの怪談も関わってるだろうとまでは考えていなかった!
といって今更、図書室を探しだして本を読む暇はなく「あー人体模型や二宮金次郎と鬼ごっこしたくないなあ」と体育館の出入り口から渡り廊下へ。
低い姿勢で壁沿いを歩いて、渡り廊下と校舎の境目のまえでストップ。
小学校の構造を知る人に聞いたところ、つきあたりの廊下を左に曲がって、すぐに階段がひとつ。
右に曲がってまっすぐ長い廊下をいった先、校舎の端に、階段がもう一つ。
で、光子さんの腕が出現するトイレは、遠いほうの階段をのぼっての近く。
距離はほぼ同じなれど、さて、どちらの階段を上っていくか。
もし人体模型か二宮金次郎が追ってきたとして直線の廊下より曲がりくねった階段のほうが逃げやすい。
だから階段で遭遇したときのリスクは変わらないが、廊下で迫られたとき、階段を駆けのぼるか駆けおりるかのちがいがでてくる。
廊下を走ったあと上るより、下るほうが心理的には楽。
ということで近くの階段から上階を目指すことに。
足音を立てないようにし、自分でない足音が聞こえないか耳をそばだて一段一段、じっくり踏みしめて。
杞憂だったか、途中で二宮金次郎が転げ落ちてきたり、人体模型がロケットのように跳んでくることはなく、三階へと。
壁から顏半分を突きだし、窺った三階の廊下は一階よりも外灯の明かりが届いているようで、あまり影がない。
「一階の廊下を突っきたほうがよかったか?」とすこし後悔しつつ、窓際の壁に肩を密着させ、しゃがみながら、じりじり前進。
一歩踏みだしては後方に目をやり、いつ二宮金次郎や人体模型が乱入してきても、すぐにスタートを切れるよう身がまえて。
ちなみに教室などの部屋には入れず。
野外で人が利用する建物は立ち入り禁止なのと同じように目的地のトイレだけ入室可なのだろう。
部屋を使えないのは不利とはいえ、人体模型に超人的な運動能力がなければ、二つの階段で切りはなすことができそう。
まあ、人体模型と二宮金次郎に挟み撃ちされたら、一貫の終わりだが・・・。
部屋に立ち入り禁止なのは裏をかえせば、そういった、かくれんぼが必須な事態にならないからなのか。
なんて鬼畜ゲーム制作側の意図を見ぬこうと考えに耽っていたら、あっという間に例のトイレに到着したもので。
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