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六日目・探索パート⑤
まさか鬼畜ゲーム制作側にして、ホラーの本場(?)の小学校で荒ぶる人体模型やご乱心の二宮金次郎をぶっこんでこないとは・・・。
目的地のトイレをまえにして気がぬけたような、放置プレイされて「嵐のまえの静けさか?」と疑心暗鬼に陥るような。
まあ、警戒を緩めることなく、腹に力をこめ直して女子トレイと向きあう。
そうだった、女子トイレなんだよなあ・・・。
「放置プレイで羞恥プレイか!」と鬼畜ゲーム制作側への殺意が湧きかけたが「いや、ゲームの主人公は女子だった」とため息。
今更とはいえ、女子トイレに踏みこむのに気を重くしたものの、命がかかっているとなれば「やだあ、恥ずかしいー」ともじもじしていられず。
一息ついて腹をくくったら懐中電灯をつけて、いざ、人生初、女子トイレへ。
当りまえとはいえ、男子トイレと構造や内装はさほど変わらず。
差異は小便器があるか、ないかくらい。
ちなみに未来の俺が通っていた小学校には男子トイレも個室しかなかったに、古めかしいとはいえ、見慣れた風景だ。
はじめは、どきまぎしていたのが「所詮トイレはトイレだ」とすっかり頭が冷えて、さっさと本題、トイレの光子さんの召還にとりかかることに。
個室は五つ、そのどれかの扉のまえで、三回体を回転させ、三回ノックをして「光子さん遊びましょ」と呼びかける。
噂では、ドアに白い腕が生えて手招きをするだけで無害らしいものを、予想外の出方をするかも。
いつでも跳びすさったり、ロケットダッシュできるよう備えながら、個室一つ一つのまえで丁寧に召還の儀式を。
「みーつこさん遊びましょっ」と云って待つことしばし、果たして奥から三つ目の扉に、音もなく白い腕が生えたもので。
あっけない出現に「どこいったよホラー感・・・」とまたもや出鼻をくじかれたよう。
しばらく観察しても、宙に腕が揺らめくだけで変化なし。
だったらと「光子さんは、なにをしたいの?」「居場所をちくった奴を呼びたいの?」「お母さんはこの世にまださ迷っている?」と質問をしていく。
が、口裂け男のようにジェスチャーで応じてくれることなく、だれにともなく手招きするばかり。
たしかに害はなくても、ひどく不親切なもので、どうアプローチしていいのか見当がつかず。
そもそも、彼女になにをさせて自分がどうしたいのか、目的も明確ではないのだが。
「なにかヒントを見落としたかな?」と記憶を掘りおこしていたら、ふと腕が静止し、俺の首をつかもうとするかのように手を伸ばしてきた。
無害アピールをして油断させてからの襲撃か!
舌打ちをして、すかさず後ずさりするも、俺の顔の横、向かいの壁ににょっきり腕が生えて。
「トイレなら壁のどこでも腕を生やせる!?」とぎょっとし、慌てて女子トイレから跳びだす。
とはいえ、廊下の壁からも腕が伸びたに、さらに度肝を抜かれつつ、走りだして、思わずクレームを絶叫。
「こんなの聞いていない!」と。
噂では人に手だししないはずが、どうして俺だけ?
なにか粗相をして光子さんの癇に障ったのか?
自分の言動を顧みながらチロルチョコを口に放って、全力疾走を維持したのだが、そのうち疑問が浮かんできた。
光子さんは追いかけるように俺の背後の壁に腕を突きだしている。
ただ、トイレに限らず、学校の壁のどこでも腕を生やせるなら俺の前方に出現してもいいはずが。
一直線の幅の狭い廊下、しかも教室にはいれない状況では動きを読みやすいだろうし。
それをしないのは先回りして体をつかむ、叩いたり引っかいたりするといった攻撃をする気がないから?
手招きしつつ、追いたてるように出現するのは俺を誘導するため?
だとしたら、このまま煽られて走っていけば、罠にかかるかもしれない。
そう考えると腑に落ちて、急ブレーキ・Uターン・再ダッシュ。
案の定、こんどは前方に白い腕が生えて行く手を阻むように。
手招きでなく「しっし」と猫を追いはらうような手つきをしているに、やはり俺を罠に誘いこみたいのだろう。
どんな魂胆があるにしろ、今は白い腕を出現することしかできない、無力状態のようなので怖さ半減。
学校にはいってからは、ほぼ放置プレイで、余計に「いつ、しかけてくる?」と冷や冷やさせられたから「はっはー!俺を止めたいなら止めてみろー!」と反動で変なテンションに。
そのままの勢いで階段を下りようとしたら、折れ曲がった下段から揺れる明かりが。
近づく足音も聞こえ、とたんに我にかえって硬直。
まるで、その存在に恐れをなしてとんずらしたように白い腕も消えたし。
背をむけて廊下にもどるか、階段を上るか、悩んだところで「いや、待てよ」と。
妖怪や霊的なものは、基本、闇に潜み、自ら発光するものはいない、と思う。
それに、あの明かりは俺が持つ懐中電灯と似たものだし、足音はゆっくりと重重しく、迫ってくるようでもない。
生きた人間なのか?
それはそれで犯罪者かもしれず、危機感を覚えつつも、なんとなく立ったままでいたところ。
階段の折り返し地点、踊り場に踏みこんだのは中年の男。
振りむいて見あげたなら目を丸丸とし「きみ、なにしているんだ」と懐中電灯で俺を照らした。
つなぎの作業服を着ていたり、俺と遭遇しても慌てふためかない胆が据わった態度からして、おそらく用務員。
「三階の女子トイレの噂を聞いて肝試しにきたのか?
まったくだめだよ、こんな夜遅くに。
さあもう帰りなさい、なんなら家まで送っていくから、きみ一人かい?」
これまでも生きた人間が干渉してくることはあったが、一見、まともそうな人がまともな発言をしてくるという、このパターンははじめて。
「直接は関係ない人なのか?どう捉えたらいいんだ?」と状況把握ができないまま、でも、とにかく「ご、ごめんなさい」と適切な対応をして、男のもとに歩みよる。
油断はならないと分かりつつも「警察につきだす!」「学校にいいつける!」と大目玉を食らうと思っていたのが、叱るより心配してくれたのに、つい安堵してしまい。
なにより夜の小学校に一人でいるのは、心が押しつぶされそうに辛かったから、生きた人間にならだれだろうと、すがりつきたい思いで。
二人、肩を並べて、懐中電灯も並べて歩きだし「親が心配しないのかい?」とため息を吐きつつ、用務員さんも好奇心があるのか。
「これまで、肝試しにきた子はいるが」と説教から遠ざかって話しつづける。
「いつも複数いたし、怯えながらもぎゃあぎゃあ喚いてはしゃいでいた。
それに比べたら、なんか、きみはちがうな?
たんなる冷やかしや友だちとのワルフザケにつきあってではなく、やけに深刻そうに・・・」
「もしかして、いじめられての罰ゲームとか?」とそれこそ深刻に受けうめられたのに「え、あ、い、いや、そうじゃないんです!」とつい声高に否定。
「ほんとうか?」と疑い深そうに見られて、とっさに嘘がでてこず。
校舎をでるまでには、まだ時間があったし「ここだけの話」とひけらかしたい思いもあって「じつは・・・」と口を切る。
高校でエンドー先生に教えてもらった、一家心中に関係あるのかないのか定かでない、ある不可解な事件について、とくと語ったもので。
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