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六日目・探索パート⑥
エンドー先生には警察の知りあいがいるらしく、報道されていない迷宮事件について詳しいのだとか。
たとえば口が裂けた死体が発見された件。
そう、この地域の一家心中と同じような事件が、全国に点々と起こっているうえ、すべて未解決という。
おそらく同一犯であり、殺した相手の口を裂くことで自分の功績だと顕示しているとの見方。
全国を股にかけた連続殺人事件となれば、世の中が震撼して大騒ぎになりそうなものを。
この地域にも累が及びながら、エンドー先生以外だれも知らないのは警察が死体の状態を公にしていないから。
口裂け女が都市伝説として大流行しているとあり、うかつに発表をすれば、世の中が混迷して捜査の支障になるだろうと考えてのこと。
とはいえ、学校で女子たちが死体の異常性を語っていたように、どうしても情報が漏れてしまうも、日本中に類似する事件が起こっていることは、これっぽっちも噂になってなく。
それもそのはず。
事件が起こった地域のそれぞれの警察が情報共有していないし「うちはうち、よそはよそ」と連続殺人とは認めていないのだから。
転生してから二日目に思い知ったように、この時代の警察は縄張り意識が強すぎ、捜査協力をしないのは当りまえ。
なんなら「手柄を横どりされて、たまるか」と敵対し、重要な情報をひた隠していたよう。
エンドー先生の知人の警察関係者が嘆くように「いがみあって得するのは犯罪者なのに・・・」という悲惨な現状。
お互いの情報を照らし合わせ、組みあわせたり補完したりして全体像をつかみ、一致団結、人海戦術でもって捜査に当たれば、容疑者をすぐに逮捕できそう。
ただし、この地域の事件には異例なところがあり、先生曰く「同じ連続殺人犯なのか、疑わしくてね」と。
「全国の事件とこの地域で起こったのとは、ちょっとちがうんだよ。
ほかの事件は一家心中でなく、他殺だったということ。
しかも殺されたのは親だけで子供は生きていたこと。
他殺だといいきれるのは、多額の生命保険金を子供が受けとれたからね。
審査が厳しい保険会社が払ったとなれば、親だけが心中した可能性はないでしょ」
まだ高校生とあって保険に詳しくはないが、保険金にまつわる物事には人の愛憎が渦巻いての血なまぐさいようなイメージがある。
光子さんの親も生命保険をかけていたのかな・・・。
いや、一家心中したなら、だれも受けとれないし無意味か。
頭の隅で、そう考えながら「じゃあ連続殺人と一家心中は共通点がありつつも無関係?」と聞いたら「とは、いいきれないような気がする」と先生は肩をすくめて。
「そのとおり、まったく別物の一家心中なのかもしれない。
でも、なにかしらの理由から殺さないはずだった子供を手にかけた可能性もあって、やっぱり犯人が同じなのかも。
だとしたらトイレの光子さんは、ちくった奴ではなく、真犯人をおびき寄せようとしているんじゃないかって思えるし、なんか、そのほうが腑に落ちるんだよ」
そうやって先生とやりとりしたのを階段を下りながら、かいつまんで説明。
すべてを語りきって用務員の反応を窺おうと振りむいたなら。
「おっと」となにか落としたようで屈みこみ、視界から消えた。
階段の下のほうだったに、先に踊り場に降りようとしたところ、ふと記憶がよみがえるとともに疑問が湧いて。
たしかクラスメイトの女子は云っていなかったか?
友人の妹が体育館端の扉を開錠しておいたら、翌朝も開いたままになっていた。
教師が帰り際、学校を見回るものの、隅隅までしないから見落としたのだろうと。
なにより「その学校、宿直の人はいない」と断言していたに、じゃあ、この人は・・・。
段を踏みしめ、うつむいたまま、答えを導きだそうとした、そのとき。
手すりに白い手が生えて、俺の頭上、斜め上に人差し指をさしてみせた。
ぎょっとする間もなく、反射的にしゃがみこめば、空を切り、頭すれすれに、なにかが掠めたよう。
見るまでもなく、用務員もどきの男が拳をふるったものと確信し、屈んだ体勢からクラウチングスタート!
踊り場から一気に階段を跳びおり、角を曲がって一階の廊下を走っていけば、無言の足音が迫ってくる。
「急にどうしたんだ!」と心配するでも「こら!悪餓鬼!」と怒鳴るでもなく、もう芝居する気がないのだろう。
きっと俺の口を封じることしか目にない。
さっき得意になって語った、連続殺人と一家心中についての疑惑が、よほど耳に痛かったか。
ということはエンドー先生が予想したとおり、トイレの光子さんにおびき寄せられた、一家心中に見せかけた連続殺人の真犯人!?
つまり全国津々浦々で死体の口を裂いて、自分の犯行の目印にしてきた猟奇的殺人鬼!?
おおおおおのれ!超鬼畜ゲーム制作側めえええええ!
ホラーゲームにして都市伝説や怨霊を差しおき、血が通った狂人をぶちこむんじゃねええ!
ホラーからサスペンスにさま変わりし「やっぱ、生きている人間のほうが恐ろしいいいい!」とちびることもできないほど、あそこが委縮しきってしまい。
猟奇的殺人鬼と夜の小学校で鬼ごっこするなんて生き地獄のよう。
「これなら光子さんの手と戯れているほうが、ずっとましだわ!」とぼろぼろ泣きながら「そうか」と思う。
同じように彼女も一人で命がけで、暗く冷たい廊下を走っていたのだ。
家で目の当たりにしたのは母親ではなく、この男が父親と弟を殺すところ。
ほかの事件では子供を殺さなかったものを、どうして弟に手をだしたのかは分からないが、光子さんに限っては目撃者を排除するためだったのだろう。
犯罪を完遂させるための執念はすさまじく、小学校の女子トイレにまで押しかけ、亡き者に。
母親はむしろ男を止めるために追いかけてきたのかもしれない。
が、間にあわずに、こんどは男に追いかけられる羽目に。
そうして逃れるうちに小学校から、かなり距離のある橋まで。
そこで揉みあったのか男に落とされたのか、それとも自ら跳びこんだのか、川に落ちたわけで。
母親が心中するため一家を皆殺しにしたというより、この男の犯行と考えれば、いくつか引っかかっていた点の説明がつく。
まあ、まだまだ謎だらけだが。
そもそも、これまで男が親だけを葬り、子供を見逃していた理由がさっぱり。
この地域の犯行では、子供が目撃者になったから殺したのだろうが、いいかえれば、失敗をしたわけで、だとしたら、今までのように死体に印をつけて誇るだろうか。
光子さんの怪談まがいな噂を聞きつけ、わざわざ足を運ぶくらいなら、かなりの慎重派であり、犯罪のほころびがあれば徹底して隠ぺいしようとするのではないか。
母親の死体の口が裂けていたのが、どうも気になったとはいえ、理由が判明したとして俺の命が助かるわけではない。
「考察と答えあわせは、あとでじっくりすればいい」と今は迫りくる殺人鬼の対処に全集中。
若くて力が有り余っている、お年ごろの俺より体力も筋力も劣る中年なれど、さすがは全国をとび回る連続殺人犯。
チロルチョコで補給して、走る速度を落とさないのに、つかずはなず追走してくる。
警察の目が節穴だろうと、全国で殺人を横行しながら隠しとおせているのは、相当なやり手の知能犯でもあるから。
比べたら口裂け男のスカートマジックで、まんまと化かされた口裂け女なんてかわいいもので、比べて、この命がけバトルは一筋縄にはいかないだろう。
熟練のハンターと平和ボケなDKじゃあ、分がわるすぎるけどな!
鬼畜ゲーム制作側の、相かわらずの無茶ぶりにむかむかしながら、その怒りをエネルギーにしてに廊下を猛進していった。
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