六日目・探索パート⑦

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六日目・探索パート⑦

夜の小学校でトイレの花子さんの原型の一つだろう、トイレの光子さんとの対決から(一応、関連はありつつ)とんだサプライズ出演の連続殺人犯とのデスマッチに突入。 さてさて教室などの部屋はゲーム的に立ち入り禁止となれば、校舎より、まだ自由が利く外にでたほうがいい。 用務員を装った男に殴られそうになって、焦るまま走っていたものを、すこしは頭が回るようになり、体育館へと。 真ん中を突っきり、端の小部屋にはいって、侵入口の扉から跳びだした。 チロルチョコを噛みしめ、そのままパワー全開で走ろうとするも、ずぼりと雪にはまってしまう。 学校裏のここは俺以外の足跡がすくなく、踏み固められていないに、いちいち足が埋もれる。 「くそおおお!」となんとか高く足をあげて、跳ねるようにすすむ俺に対して、遅れて扉の音を立てた男は、ざっざっざっと雪をかき分ける足音を急接近。 積雪で殺人をしたり、同じようにターゲットと鬼ごっこした経験でもあるのか。 雪には慣れているようで、距離を縮められたものを、除雪されたところに踏みでたならチロルチョコインでスピードアップ。 わき目もふらず、校門に向かおうとして「いや!いかん!」と途中で踏みとどまり、グラウンドのほうに進路変更。 校門付近には口裂け男が待機しているが、口裂け女もいるかも。 敷地内に侵入したときには、あたりに見当たらなかったとはいえ、そのあと辿りつき、足跡が途切れているのに気づいて待ち伏せしている可能性が。 「口裂け男と合流したかったけどな!」と目に涙をにじませながら「さて、どこから脱出するか」とシンキングタイム。 学校まわりの塀も、ほかの出入り口の門扉も高くて、上るのに手間どるに、そのタイムロスで殺人鬼に追いつかれ抱きつかれるかも。 もたつかずに上れるところはないかと、下校途中で小学校を見て回ったのと、さっき校内からグラウンドを眺めたときのことを思いかえして。 「そうだ!平均台!」とグラウンドに踏みこみ、雪を蹴散らして目標にまっしぐら。 そう、さっき三階から見下ろしたとき、グラウンドの端にある平均台が目にとまったのだ。 低いのと、中くらいのと、高いのと、階段のように並んで、子供が乗ったり跳んで遊んだのか、台に雪は積もっていなく。 いちばん高い平均台は、塀の近くにあり、俺なら軽々と跳び移れるはず。 グラウンドは子供の足跡がいっぱいで走りやすく、すこし男から遠ざかり、平均台のまえに到着。 走る勢いのまま、低い平均台に乗り、ホップステップジャンプと塀にしがみついた。 すかさず塀を跨いで、学校外の道に降り立ち、一息つく間もなく、よーいどん! 雪に足跡がつく以上、追跡をかわせないとはいえ、とりあえず、すこし先の十字路、曲道があるところを目指す。 うしろを気にせず、ただただ雪を蹴ったものの、なかなか男が塀を跳び越えてこないような・・・。 俺のように華麗にホップステップジャンプできなく、足止めを食っているのか。 十字路に近づき、うしろを一瞥すれば、やっと雪道におりたところ。 それを目にして「速度を保ったまま直進して、遠ざかったほうがいいのでは?」と作戦変更。 きっと地の果てまで足跡を辿ってくるだろうに、道をくねくね曲がっても、あまり攪乱はできない。 今はとにかく距離をあけて、打開策を考えて実行できるだけの時間を稼いだほうがいいかも。 そう腹に決めたなら、曲がる体勢にはいっていたのを、もとにもどして、ばく進しようとしたのだが・・・。 十字路に踏みこむまえに、ヒュッと風を切る音がし「なんだ!?」と思った矢先に、頭にすさまじい打撃が。 一瞬、目のまえが真っ白になり、完全に思考停止、体も無感覚になって雪道に頭からスライディング。 とっさに顔をあげたとはいえ、風呂でのぼせたように意識がぐらつき、また雪に埋もれてしまう。 地震が起こっている錯覚がするほどの眩暈に、指の先まで痺れきった体のひどい気だるさ、かるい吐き気。 なにが起こったのかさっぱり分からず、でも、横むきにした顏の目のまえに石があるのに気づく。 口裂け男こと、涼陽の形見としている、それかと思いきや、いや、この石には透明性がないし、緑でなく灰色、しかも大きな拳サイズ。 もしかして殺人鬼のハンターが石を投げて俺の頭にぶつけた? いや、小学校の塀から、ここまでは野球の投手から捕手くらいの距離があるし、ボールでなく石となれば、まぐれでも的に当てられるとは・・・。 身動きできないまま、神がかった男の遠投について考えを巡らせていたら、ざっざっざっざと、ゆったりとした足音が近づいてきた。 「たく、手間をかけさせやがって」と聞こえたほうに見やれば、手に持つパチンコが視界ぎりぎりに入って。 Y字型の棒に、ゴムがつけられた、おもちゃだ。 パチンコの玉をゴムに引っかけて伸ばし、手を放せば、弾丸のように跳ぶという。 駄菓子屋で見かけたそれより、手づくりらしい本格的なもので、殺人鬼の飛び道具の一つなのだろう。 ターゲットを逃したとき、足止めさせるための。 もしかしたら遅れて塀を乗りこえたのも作戦だったのかも。 的を絞りやすくしたくて、俺をまっすぐ走らせるよう仕むけたのか。 相手のほうが、ずっとずっと上手だったようで。 人を殺すのに手段を選ばないだろう冷酷な処刑人に、虫を殺すのもままならない軟弱男子高生が敵うわけないと分かりきってはいたが。 「くそ・・・!」と歯噛みしつつ、男が手を伸ばしてきた気配がし、拳をぎゅっと。 観念したように見せかけ、つかんだ雪を屈みこんだその顔にぶっかけ、後ずさったその隙に立ちあがる。 まだ、頭も体を覚つかないで、ふらふらと歩くことしかできず。 すぐに捕まるだろうとしても、意地になって最後の最後まで抗おうとしたところ。 思わず手を伸ばした、道の角から、なんと口裂け女がご登場。 やおら振りむいて歩み寄ってきたのに、俺は棒立ちになり、口をあんぐり。 都市伝説の代表格と、日本中で殺人行脚する大悪党に挟まれるとは・・・! それにしても、よくもまあ、タイミングばっちりに顔を見せたもの。 「俺に発信機でもつけられているのか?」と思ったが、いや、さっき校門からでようとして進路変更したとき、門扉越しに覗いていたのかも。 で、グラウンドのほうに走っていった俺を見届け、同じ方向に足を運んだのか。 殺人鬼とデットヒートの最中で、そこまで考えつかなかったのはしかたなく、この遭遇は、運がわるいとしかいいようがない。 「なんだ、あの女」と男は、相手が口裂け女とまだ気づいていなく、近づいてくるし、彼女は通せんぼしながら迫ってくるし。 お互いがお互いを屁とも思っていないなら、口裂け女対人面犬のように危機を打開できなさそう。 絶体絶命すぎて、なにも思いつかず「どうなんの!?」と見守るしかなかったのが、まさかまさかの、さらなる登場人物が追加。 口裂け女がでてきた道の角から跳びだしたのは、そう、口裂け男だった。
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