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日曜日
日曜日なれど「休みに、いろいろせねば」と気負ったせいか、のんびりと寝ていられず。
学校がある日と変わらない時間帯に起床。
お腹が空いていたから冷蔵庫にいれたのこりのご飯でお粥をつくり、茶碗四杯分たいらげて賞味期限の近かった牛乳を一気飲み。
茶碗を洗い、歯磨き、洗顔をし、干しっぱなしの洗濯ものを片づけたら一休み。
「よし!」と気合をいれなおし、電話に手を伸ばした。
外国にいる両親と連絡をとるためだ。
昨日、廊下に落ちていた手紙には「緊急連絡先」が書かれていたので。
それにしても、はじめての国際電話。
しかも相手が悪徳家政婦の工作によって関係を悪化させられた親となれば、受話器を持つ手が震えて。
が、思ったより難しくなく外国と電話はつながり、親にしろ「よかった!やっと声が聞けた!」と母は涙声「とりあえず連絡がとれてよかった」と父は安堵のため息を。
この世界の元のゲーム「口裂け女がさ迷う町」を前世でプレイしていたときは、主人公が小学生の女の子だったこともあり「ほったらかしにして、なんていう親だ!」といい印象を持たなったが・・・。
仕事命でも根がわるい人ではないらしく、主人公の女の子が聞き分けがよくて手もかからない、いい子だから、つい任せきりにしたのか。
むしろ家政婦が仲を裂こうとしたのがショック療法になって、目が覚めたのかもしれない。
いやいや子供が拉致されかけないと家庭を顧みないの?
まあ、まだ不服ではあるが、口裂け女の呪いを回避したあともこの世界で生きつづけるのだし、親と気まずくなるのは避けたいところ。
そう先のことを考え、一時の感情に流されないよう自制しつつ、手紙や電話を無視しつづけていた理由を伝えた。
拉致されかけたことは打ちあけるとややこしくなるに、それをぬきに家政婦の悪行についても。
「手紙を懐にいれたり、電話線をぬいたり、連絡がとれないようにして、なかなか俺はそれに気づけなかった」
「昨日、家に帰ったら居なくなっていて、今朝もいないし、結局なにをしたかったのか分からないけど、もう、もどってこないと思う」
おおまかに、この二点を伝えると、親は疑うことなく「それでお互い誤解させられていたのね」「そんな意地悪な家政婦がそばにいて心細かったろう」と思いやりつつ「息子に愛想を尽かされたのではないのか!」とほっとしたよう。
といって「一人で大丈夫?あたらしい家政婦さん雇おうか?」と聞くあたり配慮に欠けているし、やはり無神経。
「拉致されかけたトラウマがあるっつうの!」と吠えたいのを飲みこんで「家事は一通りできるし」と返答。
「父さんや母さんが帰ってくるまで、なんとか一人でやってみるよ」
すぐに帰国できない後ろめたさがあるに、そう健気な発言をすれば、だんまり。
家政婦については、それ以上すすめてこず、話をかえて「そういえば、お金とかは盗まれていない?」と。
拉致されかけたうえ、そのまま探索パートに突入し、考える暇がなかったとはいえ、盲点だった。
親曰く「生活費の管理は家政婦がしていた」とのこと。
家の生活費の保管場所や、また金目のものがあるかを聞きだし、一旦、電話を切って確認。
結果、家には俺の財布に入ったお小遣いしか現金はなく、目ぼしい金目のものは、すべて焼失。
今更とはいえ、血の気の引く思いがした俺は慌てて再度、電話し「ごめん・・・!」と。
「そんな気に病まなくていい。
通帳や印鑑は弁護士に預けてお金の入出について、ちくいち報告してもらっているし、わたしたちもこっちで、ある程度管理をしているから。
わたしたちのほうこそ家政婦に任せっきりなのが、いけなかったしな。
それより、これからの生活費をどうするか考えよう」
金勘定などシビアな問題については、大人として頼りになり、親が帰国するまで、どうするか相談。
で、海外から、しばらくの生活費を送金し、知りあいの銀行員に頼ん、俺が受けとれるよう手配をしてくれると。
ただ、手つづきするのに時間がかかるに、生活費がもらえるのは二日後。
それまでは俺の小遣いで、おもに食費などをやりくりすることに。
小遣いは駄菓子屋でアイテムを買うのに必須とはいえ、空腹でゲームオーバーになっては元も子もないから、しかたない。
まあ、口裂け女とのバトルもあと二日だし、ゲームのアイテム購入は慎重派とあって、食費につぎこんでも、すこし余りそう。
「万が一」に供えすぎて頑なに財布のひもを固くし、結局、ゲーム終盤まで有効に使えなかったのを「宝の持ち腐れ」とよく笑われたものだが、今はその性格が功を奏したと思う。
もし元のゲームでも、家政婦に生活費を持ち逃げされるイベントが発生したとして、その時点でお小遣いが底をついていたら詰みだし。
ミキオや、まわりの大人に助けてもらう手もあるとはいえ、口裂け女との最終決戦が近いときに関係ないことでごたごたして、心身にいらぬ負担をかけたくはない。
小遣いの残額を伝え、その使い道の指南を受けてから(この時代の物価の基準が分からなかったので)「じゃあ、わたしたちが帰るまで気をつけて」「毎日、できるだけ朝と夕方、夜に電話するから」と別れの挨拶を交わし、重い受話器をがっちゃん。
はじめは「さめざめしていた手紙の印象とちがって、いざ、連絡をして鬱陶しがられたらどうしよう・・・」と怯えていたものを、よくわるくも親の人柄が知れたし、生活費についてなど重要なことを話しあえたのだから結果は上々だろう。
正直、まだ「口だけでなく、とっとと帰ってこいよ」と引っかかるところがあるとはいえ、命がけの鬼ごっこからの帰還を、待ちわびてくれる存在がいるというのは心強い。
「邪険にされなかっただけ万々歳だ」と一段落つけ、おつぎは未知数の古い家電たちのお相手を。
さいわい台所を漁ったら、すべての説明書があったに、ざっと読んで試しに使ってみてとくに問題なし。
この時代の家電は、つくりが簡素でボタンもすくないので、かえって操作が覚えやすく使い勝手もよく。
思ったより家電の難題が、あっさり片づいたので昼前にスーパーに買い物。
家では新聞をとっていなく、チラシで情報を入手できなかったが、学校の女子たちの「あそこは安い」「あの店の野菜はおいしい」との口コミをあてに近場のお店へ。
米や味噌などの基本の調味料は十分にあったに、二日分きっかりの食材を買い、無駄遣いはせぬよう。
と思いつつ、この時代ならではのお菓子、レモンケーキを見かけたら、うずうずして「まあ、自分へのご褒美に」と購入。
帰宅したら、まだ残っている冷や飯(家政婦さんが、どうしてか大量に炊いたので)と冷蔵庫にある具材をさらいてチャーハンと豆腐の味噌汁を。
後片づけをし、洗濯をして、かるく掃除機をかけてお昼寝タイム。
こうして、せかせかと家事にかまけるのも気分転換になっていい。
いつも背後につきまとうような口裂け女の重々しい影を一時でも忘れられるし。
とはいえ、気を緩めすぎず、夕飯を食べて家事を済ませ、学校にいく準備をしたら、日記を読みなおし、気づいたことや疑問点、問題点、また五日間の戦いをふりかえって思うところをノートに書きだして。
六日目七日目は難易度マックスに至るだろうから、同じ過ちを犯さないよう反省を活かしての応用ができるよう備えておかないと。
いざというときは記憶を引っかき回す暇がないから、反射的に判断、行動できるように。
なんて、かっこつけて考えこみながら、成績が平均的な俺にこうした高度な頭脳プレイは無理筋。
ノートと睨めっこしていると、脳みそが悲鳴をあげまくったものを「あと、二日だから・・・」と歯を食いしばる。
が、ふと「あと二日か・・・」とも思って。
「口裂け男と会えるのも、たった二日で、そのあとはどうなるのかな・・・」
つい寂しそうに呟いたのを「いかんいかん!」と頭をふり、ノートを鉛筆でがりがり。
でも、胸がずきずき疼くのは、ずっと消えることがなかった。
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