六日目・調査パート①

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六日目・調査パート①

休み明けの起床は「また夕方、口裂け女とのデスマッチかー」と思えば、なおのこと憂鬱なのだが、今回は「さぶっ!」とたまらずに跳ね起きた。 目覚まし時計を五時半にセットしたのより三十分もまえに。 今は初夏、春から夏にかけて暑くなく寒くもなく、過ごしやすい時期のはずが。 パジャマの上にカーディガンを羽織っても震えがやまず、タンスの奥から厚手のセーターを引っぱりだす。 冷たい手をセーターに隠しつつ、窓の元へいき、カーテンを開ければトンネルをぬけるとなんとやら。 窓の外は眩い白銀の世界で、絶え間なくしんしんと雪が降りそそいでいる。 初夏にして、ありえない光景「気候変動」が問題視されていた未来にもなかった、とんだ異常気象だ。 慌てて一階へ向かおうとして、机にあるリポビタン○に目をとめ、一気飲み。 「かあああ!やっぱり、まずい!」と一息ついてから階段を下りて、分厚いテレビのスイッチオン。 テレビの数字の書かれたボタン、どれを押しても、どこのチャンネルでも、この天変地異ついて騒ぎたてていた。 どうやら雪が降っているのは、俺が住む地域一帯だけらしい。 限定的な異常気象の不思議さにコメンテーターが「これは超常現象では?」と真顔で解説をしていたもので。 オカルトブーム全盛とあって「雪女の仕業かもしれませんね」と(笑)をつけず、物物しく語ったり。 口裂け女と日々、戦っている身にすれば「雪女か・・・」と額に手を当てて、ため息をつくところ。 頭をふって気を取りなおし、まともな天気の情報を流すニュースに切りかえ、朝食と弁当づくりに取りかかるまえに電話機へと。 こちらは早朝とはいえ、時差を計算して大丈夫だろうと外国にいる親に電話。 あちらでは日本の一地域の騒動については報道されていなく、俺が教えたのに「ええ?うそ!」となかなか飲みこめなかったらしく。 暖房器具が保管してる場所を聞くと、冗談でないことをやっと分かってくれ「ただ、石油ストーブに燃料がはいっているか、どうか・・・」と返答。 生活費が受けとれるのは明日。 それまで待っていられないが、といって、すくない小遣いでは燃料を買えそうにない。 「どうしよう」と心細くなったところで「そうだ!コタツ!コタツがあるから!」と吉報が。 電話を終えて早速、外の物置小屋から石油ストーブを、収納部屋からコタツ一式を引きずりだして。 親が心配していたとおり石油ストーブの燃料はすこし。 凍え死にしそうになったら使おうと、点火はせずに、てきぱきとコタツを設置。 厚着したままコタツにはいって、しばらく暖をとってから朝食と弁当づくりを開始。 昨晩、大方、下ごしらえしていたので、温めなおして弁当箱につめ、ウィンナーと卵焼きを追加。 余ったのを朝ごはんにし、コタツにはいってテレビを観ながらもぐもぐ。 食器を洗って片づけたら、洋服収納の部屋にいき(親に場所を教えてもらった)俺の名前が書かれた箱のなかから厚手のコートと長靴を発掘。 冬仕様の身支度をして元栓が閉まっているか、電気をすべて消したかチェックをし、ドアを施錠していざ雪道に踏みだし学校へ。 朝ばたばたしたことで、いつもより遅れてしまい、雪に足をとられながら小走りに。 「ミキオとの癒しの一時が!」と焦って転びそうになりながら、童謡の庭かけまわる犬のように浮かれてもいた。 前世、未来に住んでいた地域はめったに雪が降らず、降ったとして五センチも積もらなかったから。 またウィンタースポーツをしたり、観光などで寒い地域に足を運んだことがなく、雪とは縁遠かったし。 前世を含め、生まれてはじめて十センチほどの積雪を踏みしめるとなれば「うほっほーい!」と傘を放ってダイブしたいところ。 といって、夕方には口裂け女戦、重要な六日目が控えているに、雪合戦も雪だるまもカマクラづくりもお預け。 せめて朝の登校くらい転倒してもかまわず、傘をくるくる、るんるんスキップで。 なんて幼児のようにはしゃぐのは俺だけでなく、ミキオもすでに道にでて、カッパ姿で舞う雪をぼうっと眺めていた。 「おはよ!雪、すごいな!」と鼻息荒いまま挨拶をすると「俺、雪って初めて見た!こんな神秘的なんて!」と劣らないハイテンションで白い息を吐き、サングラスを曇らせたもので。 五体満足の凡人とは異なる世界を見ているらしい盲目に近いミキオが、神秘的と評する雪景色は、一体、どんなものなのやら・・・。 ともかく二人とも雪に感動したのにちがいなく、浮き浮きしながら歩きだし、そりゃあ、この異常気象のネタで大盛りあがり。 さっき「初めて見た」と云ったように、この地域も雪が降り積もることがほとんどなく、ミキオは弱視がひどくなる前も後も、触れる機会がなかったという。 ホラーオタクのわりに「雪女」などの大好物なネタを口にすることなく、今までテレビで見たり聞いたりするだけで想像するしかなかった雪の、本家本物の魅力に、ひたすら胸を躍らせているよう。 この朝の登校は探索パートにつながる伏線、そのとっかかりをミキオが提示してくれる貴重な時間なれど。 まあ、口裂け女から距離をおいて、なにげない平和な日常を味わうのもいいか・・・。 異性ばかりの(俺にしたら)窮屈な世界で、数少ない男友人となれば「ネタを提供しろよ!」と迫ったり「こっちは命がけなんだよ!」と八つ当たりして、関係を悪化させたくない。 登校時にフラグが立ちそうになかったとして、それはゲーム上の都合だろうし。 むしろ鬼畜ゲーム制作側の息がかかっていない、心がまっさらなミキオと、年なりにきゃっきゃと雪談話に花を咲かせるのは至福のことだ。 六日目にもなると呪い発動まであと一日しかないとはいえ「今更じたばたしても」とどっしりかまえられるもの。 学校の校門が見えてきても雪と戯れるミキオをほほ笑ましく眺めていたのが、ふと足をとめて振りかえり「あ、そうだ」と。 「なあ、拓馬、今日の夜の七時くらい空いてる?家をでることができる?」
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