六日目・調査パート②

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六日目・調査パート②

転生してから六日目にしてユキオからの初めてのうれし恥ずかし遊びのお誘い? それにしては「夜の七時」指定は面妖な・・・。 早かれ遅かれ近所に「蛍の光」が流れたら、口裂け女との命がけのランデブー(?)で遊ぶ暇はないのだが。 どういう誘いにしろ乗れないとはいえ、はなから断るのは失礼だし、内容も気になるし、口をつぐんで聞くことに。 「じつは小学校の怪談について、ほんとうかどうかクラスメイトたちと確かめにいくんだ。 拓馬は知らないかな? 小学校の三階の女子トイレ、その個室のどれかのまえで、三回、回って、ドアも三回ノックして『光子ちゃん遊びましょ』って呼びかけるの。 そしたらドアに生えてか、すり抜けてか、白い腕が出現して手招きするっていうね」 「トイレの花子さんでは?」と思うも、ホラーオタクのミキオが目を輝かせて食いつき、話を脱線させそうなので口を挟まず。 前世、未来の俺が小学生だったとき、そういう怪談はからきし流行らなかった。 身近で現実的な脅威、子供を狙う変質者の凶悪犯罪などへの注意や対処を強く意識しないといけなかったからだと思う。 この時代にも犯罪者はいたろうが、監視カメラやスマホがないとあり、犯行が気づかれにくく、警察沙汰になったとしても、科学捜査などが未発達で、犯人の判明や真相解明には至らないことが多かったのだろう。 そんな謎のまま放置されたものが怪談や都市伝説になったのかも。 とにかく前世にして四十年以上あとの未来からきた俺は「寄り道すると鬼に捕まるぞ!」ではなく「知らない人にはついていっちゃだめ!」と教えこまれたわけだが、トイレの花子さんについては知っていた。 そのタイトルのフリーゲームをしたことがあるから。 ○鬼に似た、2Dドット絵のアクションゲームで、ミキオが云っていた方法で呼びだした花子さんから逃げて、夜の学校から脱出するというもの。 ゲームでは自分から「遊びましょ」と誘っておいて、花子さんが応じたのに「遊ばない」の選択をすると追いかけられ、捕まると殺される設定だったものを。 (「遊ぶ」を選択しても、個室に引っぱりこまれて即ゲームオーバー) ミキオが語るには白い腕がでてくるだけらしい。 そういえば、ゲームの舞台は一九九○年あたりだったに、今の一九七○年代は、まだ「トイレの花子さん」がチープなバケモノあつかいされていなかったのかも。 なんてことを、つらつら思い起こしながらも、ふと「待てよ」と。 屈託なさそうに目を輝かせ、肝試しの誘いの返事を待つミキオに「いや、おまえさあ」と眉をしかめてみせる。 「心霊スポットには冷やかすように軽々しく足を運ぶと祟られるぞって、クラスの子に説教してなかったっけ? 純粋な探求心があったり、真剣に調査や研究をするため以外は、うかつに近よるもんじゃないってさ」 「うぐ」と呻いたミキオは、しばし、だんまり。 べつに揚げ足をとったのではなく、異性だらけの世界で数少ない同性にして友人のミキオに危険な目にあってほしくなくてのこと。 「たかが学校の怪談」と笑いとばせないほど、俺は日々、口裂け女の洒落にならない脅威を実感しているし。 口裂け女関連なら協力しないでもないが「トイレの花子さん」の元ネタのようなものは、さすがに別件だろう。 まさか彼女の子供が、そのトイレの光子さんであるまいし。 そう考えて、手きびしく注意喚起したのに「だって、だって・・・」とふてくされて抗弁したことには。 「これまで口裂け女の由来について数えきれないほど調べてきたけど、どれもこれも空振りでさ。 こんどこそ尻尾をつかめるかもしれないし、もしかしたらお目にかかれるかも・・・」 まえからホラーオタクのミキオはとくに口裂け女にいれこんでいた。 とはいえ、だ。 「トイレの花子さん」が「口裂け女」につながりがあるとは夢にも思わず。 「はあ?」と声を裏返すも「あ、坂田さん、今日の夜さあ」ととんずら。 女子たちに囲まれきゃっきゃするのに、悔しいかな、異性不慣れには近寄れず、しかたなく先に学校に入り、聞きこみを。 どうやら今回はほんとうに「トイレの花子さん」案件がからんでくるらしい。 正確には「トイレの光子さん」だが、それにしても話を聞いても聞いても口裂け女の存在感ゼロで、どうしたものかと思ったが・・・。 「ああ、近くの小学校の女子トイレにまつわる怪談でしょ? 怪談っていうか白い腕がでるようになった理由、それまでの経緯が、これまた面白くてさ。 きっかけは、この地域で起きた一家心中事件。 夫の女遊びとギャンブルの散財がひどくて、耐えられなくなった母親が、家族みんな自分も含めて殺そうとしたわけ。 はじめに泥酔した夫、つぎに熟睡した息子を手にかけて、でも、トイレに起きたお姉ちゃんが、それを目撃して家から跳びでた。 その家は実家や親せきとは縁を切っていたし、彼女は学校でいじめられていたから。 助けを求める当てがなくて、近くの学校に窓を割って侵入したの。 で、三階の女子トイレに駆けこんだ。 クラスに居場所がなくて授業以外は、そのトイレの個室にこもっていたとか。 でも、彼女がいじめられているのを、お母さんは知らなかったから、なかなか見つけられなかった。 探している間に夜が明けて、そのまま助かったかもしれないのが・・・どうも、ちくった奴がいるのよ。 『三階のトイレに入っていくのを見た』ってね。 そのせいで母親に見つかってトイレで殺されてしまった。 死後に白い腕をだして手招きをするのは、そのちくった奴を『つれてこい』って催促しているんじゃないかって云われてる」
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