0人が本棚に入れています
本棚に追加
六日目・調査パート③
前世にプレイしたゲームでは花子さんの由来は謎だったのが、まさか一家心中を強行した母親に小学校のトイレで殺されたとは・・・。
というか口裂け女にまつわる事件だったり、この地域には惨たらしい犯行が起こりすぎではないか?
いや元がホラーゲームだから非現実的で禍々しい世界観が構築されていて当りまえなのだが。
なるほど逃げるように引っ越す家が多いというもので、それにしたってクラスの彼女らが「血なまぐさい一家心中」を日常の一部のように、とぼけた調子で語るのもまたホラーのような。
転生六日目にして「ああ、ここは狂気がはびこる、ねじ曲がったホラーゲームの世界なのだな」とあらためて実感。
口裂け女を成仏させたら、怨念うずまくような空気が浄化され、クリーンで治安のいい地域になるのだろうか。
そう願いたいところで、一家心中の内容のおぞましさに金縛りにあったのを、どうにか解いたなら「あ、や、それでさ」と切りだす。
「ミキオがいうには口裂け女が関わっているらしいんだけど。
今の話では彼女はまったく登場しなかったし、一家心中や光子さんとつながりがあるように思えないし・・」
まえのめりに問いつめるのを、したり顔でまあまあと宥め「その話はこれからこれから。もうすこし聞いてよ」とつづける。
「光子さんはトイレの個室にいるのを探しだされて、お母さんに殺されたのだけど、そのあと一つ不思議なことがあってね。
一家心中するなら、お母さんもその場で自殺すると思うでしょ?
夫や息子を手にかけた包丁を持ったままだったというし。
でも、どうしてかお母さんは学校から外にでていった。
光子さんの居場所をちくった奴に怪しまれたのか、ほかのだれかに目撃されたのか、もしくは家を離れたことで正気にもどったのか・・・。
なににしろ学校からけっこう走ったみたいで、橋から川に跳びこんだようで。
というのもお母さんの持つ包丁から血が点点と落ちていたのが、橋の途中で消えていたから。
事件が発覚したあと、もちろん捜索されたものの、ぜんぜん見つからないで、発見されたのはなんと半年後。
捜索範囲外のかなり下流の川辺に流れついていたんだって。
ただ、そこの草がぼうぼうで人目がつきにくくかったし、だれも踏みこまない場所だったから、気づかれないまま、すっかり白骨化しちゃって。
で、その白骨の遺体を肉づけして顔を再現してみたら、これが、びっくりよ。
耳まで口が裂けていたっていうの」
「死体の口が裂けていた」との噂が本当だとしたら、物的証拠にあたる。
口裂け女の実在を証明する確実性の高いものだから、ユキオも真偽を確かめたいのだろう。
「心霊スポットにふらふら近づくべからず」というホラーオタクとして自ら科す流儀を曲げてでも。
そうやってミキオが気の迷いを起すのも分からないでもないが、やや引っかかることが。
そもそも、がだ。
「そのお母さんは昔からこの地域に住んでいた人じゃないの?
だとしたら裂けた口を隠しとおすのは難しいだろうし、ばれないようにしても、きっと挙動不審で噂になっただろうし。
もしかして、家から一歩もでないような生活をしていたとか?」
「ううん、近所づきあいも子供の親同士のつきあいも積極的にして、明るく活発な人だったらしいよ。
口がおおきくて声量や身ぶり手ぶりもおおきい、かなりのおしゃべり好きだったとか。
まあ、それがねえ、夫の女遊びとギャンブル狂いが手に負えなくなって、だんだん物静かになって家に引きこもるようになったって。
だれにも悩みを明かせないで相談もできないで、一人殻に閉じこもって、家庭崩壊を招く夫の暴虐にひたすら耐えていた。
そうやって歯を食いしばりつづけたのが、一家心中を決行するとき堪忍袋の緒が切れてさ。
怒り狂うままに、反動で勢いよく口を開けたもんだから、肌が裂けたんじゃないかって云われている」
「じゃあ、口裂け女の正体は、家族を皆殺しにした、そのお母さんだっていうのか?
うーん・・・にしてもさ、一家心中をしようとして、生きている間にその目的を果たせたわけだし、この世に未練はないんじゃない?」
「そこらへんは説明がつかないのだけど、ほら、ひとつ謎があるじゃない。
一家心中するつもりだったのが、どうして、最後の一人、娘を殺したあと、すぐに自殺しないで学校から跳びだしたのかっていう。
このとき、なにかトラブルがあって記憶や意識がこんがらがったのかもね。
娘を殺したはずが『あの子だけ殺せていない』って思いこむとかさ。
だから今も魂がこの地域をうろついて、娘を探しているんじゃないのかな。
殺しそこねたと思いこむ娘を、そこらの子供たちと重ねて追いかけまわしているってわけ」
一応、つじつま合わせをしてくれたが、こじつけくさい。
まあ、口裂け女の正体が一家心中の首謀者の母親か否かはともかく、どうやら今回の目的地が夜の小学校、女子トイレなのは確定か。
とはいえ毎度のことながら、なにを追究するのかは、さっぱり。
光子さんが白い腕をだす訳や意図を探るのか?
または遺体の口が裂けていたという謎めいた母親について突きつめるのか?
聞いたところトイレの光子さんは人を脅かしたり危害を加えないようだが、夜の小学校を一人歩く自分を想像するにどうも悪寒がする。
そもそも一家心中、憎悪する夫だけでなく、幼い息子と小学生の娘を殺したこと自体、狂気の沙汰であり、そんな凶行に走った母親の魂が、いまだ血を求めるように、さ迷っているかもしれないなんて、やっていられない。
まあ、ホラーゲームだから進行するにつれ難易度も恐怖感もパワーアップするもの。
一家心中なんて不吉極まりない事件、たとえ犯人がとっくに死亡していようと、干渉したくはないが、やだやだと駄々をこねたところで、べつの脅威、口裂け女が「わたしきれい?」とにこやかに迫ってくる。
ゲームオーバーになるのが今日か明日かの、さほどちがいはない、とはいえだ。
「ええい、夕方までには腹をくくれ!」と自分を励ましつつ、おおよその聞きこみが済んだなら、調査する以外にするべきことを。
最初のコメントを投稿しよう!