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六日目・調査パート⑤
昼休みとなり、自作の弁当を持って歴史準備室へ。
挨拶を交わし、お茶をだしてくれたエンドー先生はすでに食事済み。
俺が食べている間に、じっくりと日記を読んだもので。
お茶を飲んで一息ついても日記に目を釘づけにしていたので「それにしても、ここまでやりますかね」とこちらから口を切る。
「弟が幼いころは、俺も独占欲が強くて暴走したことがありますけど、まあ、あんま賢くなかったし、騒ぎたてて気を引くくらいが、せいぜいでしたよ。
やっぱ複雑な生い立ちをして愛情に飢えているから本気度がちがうんですかね?」
ふと日記に走らせていた目をとどめて「ふふ」と肩を揺らした。
まったく笑わせるつもりはなかったに、少々むっとすれば「ごめんごめん」と云いつつ、本からあげると口角をひくひく。
「いや、きみは、できた親御さんや人情味あふれる家庭に恵まれて健やかに育ったんだろうね。
ああ、そんな顔しないで、それは、とてもいいことだし、きみのそういう感覚のほうが至極まともで、わたしが、いやな大人になったんだろうと思うよ。
で、そんな根性が曲がったわたしは、まっ先にこう考えた。
この玲二という子は、観月家を乗っとろうとしているんじゃないかって」
「褒められている気がしない」と苛だちつつも「乗っとる?」とこちらのほうが気にかかる。
「ちゃんと跡継ぎの長男はいるし、愛人の子供なのに?」
「そう長男のように、ぬくぬくと甘やかされて育ち、指をくわえて待っているだけで安泰の地位が得られはしない。
明日がどうなるかも分からない、立場の弱い自分と比べたら『ずるい』って腹が立って『すべて奪いとってやる』って野心を燃やす人もいるの。
同じ境遇や環境でも、みんながみんな悪巧みするとは限らないけど、日記を読むと玲二は、はじめから画策していたように思うね。
父親の寵愛、まわりから好感や支持を得て、もともと評判のよくない奥さんと長男をさらに片すみに追いやろうとした。
はじめは順調で、そのまま『観月家の後継者は玲二さまこそ、ふさわしい!』と持ちあげられるものと思ったんだろうけど・・・。
そういう下心があって、媚を売られると鬱陶しいものだから。
おかげで父親は女遊びをやめないどころか、しまいには彼を疎ましがって避けるようにまでなった。
女遊びで揉めることが多くなって、むしろ『奥様がいればなあ・・・』とまわりは恋しがるしまつ。
なにより父親が女遊びをつづけるのに危機感を抱いたんでしょ。
そんな、ふらふらしていたら自分への関心を失いかねないし、これ以上妾の子が増えたら競走相手も増えるわけで、厄介だからね」
玲二の歯がしいようなやり口に、違和感を持っていたとはいえ、あくまで動機は父恋しさと思っていたのが。
まさか端から「観月家乗っとり計画」を進行していたとは・・・。
そりゃあ、平和ボケな発想しかない俺をエンドー先生も笑うわけで、悔しいながらも「な、なるほど・・・・」と肯くしかない。
「父の愛情を独り占めしたい」との共通点を見いだし、どこか自分と玲二を重ねて見ていたのかも。
どちらかといえば安寧な日常に胡坐をかく観月家長男に俺の立場は近く「なのに、なんとおこがましい・・」と顔から火がでるよう。
肌が赤く染まっていたろうものを、先生は見て見ぬふりをしてくれ「それにしても不思議だね」と日記に目を移す。
「涼陽ほどでなくても町の人たちが山狩りをするほどの大騒動になったのに、まったく語り継がれていないというのは。
いくら町の人が口止めしたって、こういう刺激的なネタは『ここだけの話』ってだれかが漏らしちゃうものだしね。
今も語られる『山道の醜女』関連で、比較的、新しい時代の話が広まっていないのが変というか、薄気味わるいような。
それこそ口裂け女の由来として大々的に取りあげられても、おかしくないはずが・・・。
日記では観月家の当主と町長は、なあなあで済ませて隠ぺいしたけど、ほかにも彼女のことが知られてはよほどまずいこと、町にはあったのかも。
ただ隠したかったのは、佳代自体のことじゃなく、もしかしたら玲二が関わった疑惑についてかな?」
まだ顔の熱が引かずに、先生の言葉もあまり頭にはいってこない。
ただ、一つだけ「たしかに」と実感して思う。
「山道の醜女」が今も噂されている一方で、佳代の存在感が皆無なのは不自然だと。
生き死にがかかっているとあり、口裂け女について懸命に調べてきた俺にして、四冊目の日記を読むまで、まるで耳にしなかったのだ。
「佳代」という名を。
ほかの口裂け女の噂ネタは、その日の探索パートに関係なくても、ちらほら聞こえていたのに。
しかも彼女の正体は佳代の可能性が高いというのに。
たとえ俺を呪い殺そうとする、忌まわしい怨霊だとしても、時代から存在を抹殺されたような彼女が哀れに思える・・・。
考えるうちに感情がこんがらがって、なおのこと頭の整理がつかなくなり、お手上げとばかり呆けてしまう。
その反応に「余計なことを話しすぎたかな」と先生は省みたのか「そういえば」と話題変更。
「さっき授業をしたあと、資料を片づけていて、きみたちが話しているのをちらっと聞いて。
この地域で起きた一家心中事件で、犯人の母親、その死体の口が耳まで裂けていたっていうのさ。
じつは、そのことでちょっと気になることがあって・・・」
昼食時間の半分で日記について考察を聞かせてもらい。
あと半分は一家心中について、顔の広いエンドー先生から貴重な特ダネをゲット。
探索パートに役立つかは分からなかったが、昼休み時間がおわるまえに、急いで教室にもどり、ミキオを見つけたなら「あのな!」とつめ寄った。
「今日は例の小学校近くで道路の工事をするみたいだぞ!
大人に見つかる危険性が高いから今日はやめておいたほうがいいって!」
同行する人たちにも聞こえるよう必要以上に声を張りあげて。
ついミキオの身を案じるあまり、命乞いするように迫真の演技ですがりついてしまい。
おそらくクラスメイトたちは呆気にとられただろうが「そっか、じゃあ別の日にするかあ・・・」と真に受けたのか、すこし落胆したようにミキオは応じてくれた。
その直後、本鈴が鳴って担当教師もすぐに顔をだしたに、不可解な俺の決死のような訴えは、だれにもツッコまれずに済んで。
昼休み時間あけの授業は眠たいこともあり、チャイムが鳴ったころには、みんな、ミキオもさっきの騒動をすっかり忘れて掘りかえしてこず。
俺とてエンドー先生にもたらされた新情報に心奪われ、まだまだ時間のある探索パートに思いを馳せずにはいられなかった。
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