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六日目・探索パート①
学校の調査もエンドー先生との話しあいも十分にできたに、下校時間を知らせるチャイムが鳴ると、いのいちばんに教室を跳びだした。
まあ、廊下にでる間際「今日は小学校に近づくなよ!」とユキオに釘を刺しはしたが。
小走りに道をいき、駄菓子屋のまえを見向きもせずスルー。
小遣いはあと二百円。
明日は親が送金した生活費を受けとれるとはいえ、口裂け女との最終決戦日でもあるし、できるだけ取っておきたかったから。
代わりに寄り道して見にいったのは、今回の探索パートの舞台、近くの小学校。
さすがに敷地内に踏みこむのはためらわれ、小学校の塀回りを歩き、さりげなく観察。
気が済むまで見て回ったなら鞄から地図をだし、気づいたり気になる点を書きこみ。
家から小学校までは徒歩、十五分。
そう遠くないとはいえ、住宅街のど真ん中にある小学校の周辺には細い道がごちゃごちゃとあり、数えきれないほどルートもある。
これまで以上に難攻不落の迷路のようで、隅々まで記憶するのは不可能なので、最短ルートを中心に、横道や抜け道にはいっての有効なルートのいくつかに搾って頭に叩きこむ。
口裂け女の遭遇パターンを予測しながらも、予想外の事態に陥ったときのことを念頭に緊急避難ルートも。
地図に照らしあわせ、実際に道を歩き一通り見て回ってから家路についた。
ほんとうは「トイレの光子さん」のネタをもっと得たかったが・・・。
まだ「花子さん」としての華々しくデビューするまえとあり、一家心中を経て霊になった以外の情報はないと思われる。
危険の度合いが量り知れないまま、回避法や対処の仕方なども未知数のまま、ご対面しないといけないのか。
口裂け女のように食おうとしたり、未来にプレイしたフリーゲームのように、問答無用に殺すとばかり好戦的でないことを祈るしかない。
光子さんについては、でたとこ勝負のようなので思いを巡らせても埒がなく、一旦、棚あげ。
また深夜に帰宅することになったら、できないだろうと思い、気分転換としても、あらたかの家事を済ませておくことに。
テレビを観ながら早めの夕食をとり、のこったご飯をおにぎりにして、探索用ショルダーバックにイン。
皿洗いをして片づけても、まだ、すこし時間があったので地図を見直したり、ノートに情報を書きだし、頭の整理をしたり。
三十分前に仮眠。
五分前に目覚まし時計のベルに起こされ、コートを羽織りマフラーを巻いて手袋を装着、ポケットに涼陽の形見(と見なしている)石をいれて。
電源を落としたコタツののこった熱にぬくぬくしていると、毎度おなじみ「蛍の光」が聞こえてきた。
いつもより、ひそやかで、しんみりしたような響き。
「ああ、そうか」と目を細めて、レースのカーテン越しに白く染められた景色を眺める。
これまで俺は雪と無縁だったが、雪国で育った人に聞いたもので。
「雪は音を吸うから、雪深い場所はぞっとするほどの静寂に包まれる」と。
もともと探索パートは、この世で一人とりのこされたかのように外は閑散としているが、今夜はもっと寂しさが寒さとともに身に染みるかもしれない。
「いや、俺には相棒がいるじゃないか」と玄関の扉を開ければ、うす暗い雪景色に、溶けこむような白いワンピースを着た口裂け男が。
雪は降りやんで、屋根や塀、電線から粉雪が散ってぱらぱらと。
「こんばんは」と歩みよると、マスクを外して「わたしきれい?」と彼流の挨拶。
防寒対策をせず、生足をさらすのに「寒くないの?」と聞こうとして「阿呆か」と自分にツッコミ。
口裂け男はこの世の人間でないし、さっきマスクを外したときも白い息を吐かなかったし。
外にでたとたん、口から湯気を立たせてやまない俺と大ちがい。
そう分かりつつも、青白い生足を見ていると、自分の足も冷え冷えとするようで、そわそわ。
「俺にとって口裂け男はなんなんだ?」と難題が浮上したのを、もちろん考えこむ暇はないので、頬を叩き「さあ、行こうか」と道路に踏みだした。
雪が積もっていようと、目的地までの進み方は、いつもどおり。
電柱などに隠れながら、前後左右確認、足音代わりの水音がしないか聞き耳を立てて、警戒全開ですこしづつ前進。
ただ、家からでて間もなく、足跡がつづいているのを、あらためて意識。
これまで自分がつけてきた足跡を見やり「やはり最終日一日前とあって、しかけてきやがったな鬼畜ゲーム制作側・・・」と奥歯を噛みしめ、ぎりぎり。
口裂け男もくっきり跡がのこっているに、そのうち彼女のも見かけるはず。
裸足だから見分けがつきやすいし。
となれば、本人を見かけなくても、足跡でその動向を探れるかもしれない。
一方で当然、口裂け女も俺らの足跡を発見したら辿ってくるはずで。
そうして探し当てられる危険があるうえ、なにより、遭遇したらほぼ詰みではないか?
追いかけっこで彼女が目をはなした隙に、どこかに隠れたり、分かれ道のひとつを選んだりして、やりすごそうとしても、だ。
足跡でもろバレなのだから。
まあ、さすがに鬼畜ゲーム制作側も、死にゲーほど理不尽なものにはしたくないようで、まっさらな新雪ではない。
朝から夕方にかけて、人が歩いたり、車が走った跡がそのままに。
とはいえ、どうしても新しく踏みしめたものは一目瞭然。
対策としては、車のタイヤ跡のうえを歩きつつ、足で雪を散らして、目立たないようにするのが、せいぜい。
なんとか足跡は誤魔化せても、遭遇したときの対処法はまるで思いつかない。
警戒を怠らず、足跡をかき消して前進しながら、考えこむも、どうにもこうにも。
運よく長く遭遇しないまま、遠目に見かけることも裸足の跡を目撃もせず、小学校近くに到着。
ここまでくればルート選びによっては、口裂け女に追われても、ぎりぎりで振りきって小学校に走りこむのが可能かも。
ただし、ばったり、でくわさなければ、だが。
「遭遇したらゲームオーバーも同然」という状況下、ずっとプレッシャーを負って、胃を痛くしていたに、早くこの重圧から解放されたくて。
「さきに小学校に入りこめばいいのだから」とついつい歩行を早め、前後左右確認をおざなりにし、水音にだけ気をつけて、カモフラージュせず、ずんずん雪を踏みしめていくと。
道を直進し、横道を通りすぎようとして、目の端に雪とは異なる白っぽいものを捉えた。
瞬間、肌を粟立たせて、でも二度見せず、まえを向いたまま猛ダッシュ。
すこし遅れて、背後から、さくさくと雪を踏む音(口裂け男のより重みのない)が聞こえたに「やっぱ初見殺しじゃねえかあ!鬼畜ゲーム制作側めええええ!」とそりゃあ、魂の絶叫をあげたもので。
お馴染みの足音代わりの水音は、積雪に吸収され、耳に届かなくなるらしい。
そこまで考えが至らなかったのは自分の落ち度なれど、これは、おそらく鬼畜ゲーム制作側の計略的な攪乱。
まんまと不意打ちを食らわされ、むかついてしかたなかったものを、今は殺意をみなぎらせている場合ではない。
この距離感と足の運びでは学校に到着するまえに捕まってしまう。
足跡があるから、ちょっとやそっとでは追跡を断ちきれないし、いつの間にか離れ離れになった口裂け男は当てにならないし。
「足止めできる手段か、有効アイテムはないか!」と頭のなかを引っかき回しながら、ここら一帯の地図も浮かべる。
その地図に、あるものを見つけ「これだ!」と通りぬけようとした横道にすかさす方向転換して跳びこみ、力をふりしぼり「うおおおおお!」と猛進。
個人経営の小さなお店のまえに至ったら急ブレーキをし、振りかえって仁王立ち。
迎え撃つとばかり胸を張る俺に、獲物を見つけた肉食獣のように口裂け女は目を爛々とさせ、一心不乱に走ってきて・・・。
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