甘い甘い

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甘い甘い

極上の昼食で腹が満たされたところで、食器を片しに行こうとする龍一を隼斗が止める。どうやらウェイターが回収する親切なシステムだという。 ならばと、そのまま戻ろうと思う龍一だったが、目の前に座る隼斗は一向に立ち上がる気配がなかった。それどころかまたメニューを眺めているのだ。 「足りなかったのか?」 そんなに大食いだったかと龍一が尋ねると、隼斗は首を振る。 「いや?お腹はいっぱいだけど。なんかデザートでも食べたいなーって」 「そんなものがあるのか?」 「あるよ、ほら」 見せられたページには、ケーキやパフェの写真が載っていた。すごい。デザートまであるなんて、品揃えがレストランじゃないか。 「どれが美味しいんだ?」 焼き魚定食でもう充分満たされていた龍一だったが、せっかくなので隼斗につきあうことにした。しかし普段から甘味を口にすることの少ない龍一にはどれがいいのかさっぱり分からない。 「どれも美味しいと思うよ、最近来てないし俺もあんま詳しくないからなぁ…」 2人でメニューを覗き込む。見開き2ページ分もあって悩ましい。 すると、視界の端にひょこりと頭が飛び出した。 「プリン美味しいよ〜」 「…………そうか」 「うんっ、シェフの特製焼きプリンだよぉ」 そう言って一緒にメニューを覗き込む少年は、栗色の柔らかな髪を揺らしてプリンを指さした。誰なんだ君は。 「あ、朱里ちゃんじゃん」 「こんにちはぁ隼斗せんぱい」 なるほど、隼斗の知り合いだったか。 無言で一人納得する龍一に、隼斗が不思議な顔をする。 「あれ?龍ちゃん会ってないの?朱里ちゃん生徒会役員だよ」 「だよ〜」 少年はニコニコとこちらを見上げる。が、全く覚えのない顔だった。なんてことだ、またなのか。時音の二の舞に、もう少し生徒会室にいた他の役員に目を向けるべきだったと、龍一は己の無礼を後悔した。 そんな龍一を見つめる少年の瞳は何故かキラキラと輝いていた。そしてあろうことか、 「ねぇねぇ龍ちゃんせんぱい。せんぱいは、生徒会に入らないのー?」 ザワッ とんでもないことを口にしたのだ。 少年の無邪気な一言で、静かに聞き耳を立てていた周囲が一気に騒がしくなる。 「「入るわけねぇだろ!!!」」 それにいち早く反応したのは正面の隼斗と、何故か赤髪。2人の勢いに驚いてか、周囲から「きゃあっ」と乙女のような声が聞こえた。 これだけ注目を浴びている関わらず、未だきゅるんとした目でひたすら龍一のことを見つめている少年に、隼斗と赤髪は続けて叱責した。 「なにがどーなったらコイツが生徒会に入んだよ!?んなわけねーだろバカか!」 「そーだよ何言ってんの!?あんな社畜組織にうちの龍ちゃんが入るわけないでしょ!?」 「あぁ!?てめ今なんつった!?」 「はぁ?てかお前何なの?朝からしつこく龍ちゃんに絡みやがって、犬は大人しくハウスしとけよ?」 「あんだと!?」 そこからは気付けば2人の言い合いになっていて、遠くの席からも観客が増えてきた。「なんだ喧嘩か?」といった声がちらほらと聞こえる。 これは良くない、そろそろ止めさせねば。 「やめろ2人とも、こんな所で喧嘩をするな。周りが見えないのか?」 暗に迷惑だと両者に伝え、続けて知らぬ間に龍一へ抱きつき腹に顔を埋めていた少年の頭を撫でた。 憐れな。突然の怒号に怯えてしまったのだろう。 「もう大丈夫だ」 なるべく優しい声で囁くと、少年は顔を上げた。 その目はやはり潤んでいて、龍一は頭から手を下ろし次に頬を撫でる。すると少年はふわりと笑った。 「ふふ、くすぐったい」 「君の肌は…絹のように柔らかいんだな」 「ほんと? 嬉しい。もっと撫でて?」 「あぁ。 少年、名はなんという?」 「遠山朱里っていうの」 「そうか、君に良く似合ういい名だな」 「えへ、なら朱里って呼んでくれる?」 「あぁ、君が許すなら」 「うん、呼んで呼んでっ」 「わかった、朱里」 「えへへ」 「…俺らは何を見せられてんの?」 「甘い……甘すぎる……」 「流れるようなイチャイチャご馳走様です」 「あそこだけ虹かかってない?」 「くそっリア充がよ……!」 「あぁ朱里様、なんて愛らしい…!」 抱き合う2人の醸し出す甘い空気に、周囲は様々な反応で溢れ返った。赤髪はその光景に顔を引き攣らせる。隼斗はそこに割って入りたいものの、先程龍一に叱られたことが気にかかって何も言えずにいた。 しかし、暫くその状況を眺めていたものの、突然何かを感じ取ったようにハッと息を呑んだ。 「龍ちゃん帰ろっ」 「?どうした」 朱里の頬を撫でていた腕を取られて見上げると、えらく焦燥に駆られた表情の隼斗がいた。そのまま腕を引っ張られる。 「早く帰らないとアレが来るから!」 「なんだどうした」 ここまで焦る隼斗は珍しい。事情が気になるものの、とりあえずは彼の要望通りに帰ることにする。 朱里に腕を解いてもらい、隼斗に引かれるままその場を立ち去ろうとした。その時だった。 キャアアアアアアアアアア
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