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人族のハルカからしてみれば、求愛する方も、される方も大変だろうと思うのだが、多くの異種族からすればめずらしくもない、ごくごく普通のことらしい。
たいてい、「しょうがないよね~」でおさまっている。
しかし、稀に「しょうがない」では、済まされないときがある。
それは、恋敵が現れたとき。
「オレの方が、愛している」
「何をいう、ワタシの方が数倍愛している」
「バカを云え、オレはオマエの100倍愛している」
「バカも休み休み云え、わたしは1000倍愛している」
理知的だったはずの彼らは、じつに幼稚な舌戦を繰りひろげたあと、本能のままに「どっちが愛しているか」バトルを勃発させるのだ。
きっかい村をバトルフィールドに3日3晩。より激しい戦闘をするため、魔界や妖界に戦場をうつして数日間。決着がつくまで闘いはつづくのである。
しかしながら、いざ決着がついたとて、バトルの勝者が必ずしも愛を得られるとは限らない、というのが恋愛問題の難しいところ。
傷つき倒れた敗者を胸に抱き、
「いや、死なないで! いま気づいたの。わたしが愛しているのは、アナタよ。アナタじゃないと、わたしはダメなの」
なんてことは、けっこうある。
不運にも、そういう場面に出くわしたことがあるタツ子は、しみじみ云っていた。
「もう、目も当てられないよ。満身創痍で勝ったっていうのにさあ……終わってみたら完全に当て馬というか。愛の咬ませ犬っていうのかねえ……こればっかりは、どうにもならないんだけど、可哀相でねえ。人間も人外も、恋っていうのは難儀だよねえ」
そんなわけで、異種族特有の恋愛衝動、求愛行動について、ハルカは多少の理解と免疫があったので、シルヴィーの突然の告白にも、
「へえ、そうなんだ。いつから?」
ストーカー行為にも、
「大丈夫。嫌いになんてならないよ。ほら、元気だして!」
背中を――トントンという具合に、冷静沈着に対処できたのであった。
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