お隣さん

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場所は変わって―― 古民家の縁側にて、正座をしてハルカを待つシルヴィーは、拷問のような両脚の痺れに耐え忍んでいた。 玄関先でワインボトルをしっかりと抱えたハルカから、『お隣さん諸法度(しょはっと)』云い渡されたのち、夢のようなお誘いを受けたのは10分前。 「せっかくの『お近づきのしるし』だし、良かったら古民家(うち)でいっしょに飲まない?」 「いいのですかっ!!!」 これは夢かと。足がもつれそうになりながら、ついに夢にまで見ていた古民家の敷居をまたいだ。感無量だった。 玄関からまっすぐ伸びた廊下の先には、襖や障子を開け放った間仕切りのない正方形の居間があり、南向きの窓からは自然光が射しこんでいた。 縁側から見えるのは、垣根に囲まれた小ぶりな庭。そこには、見ごろを終えた桜木があった。 「適当に座って、くつろいでいてね」 そう告げたハルカは、廊下を挟んだ居間の斜め向かいにある台所へと消えていく。 シルヴィーが陣取った場所は、ハルカの後ろ姿がいちばん良くみえる縁側だった。 視線の先、台所でグラスを用意する愛しい人は、 「ねえ、シルヴィーは酢の物とか平気? あっ、酢の物って、わかるかな。ピクルス的なヤツなんだけどー」 そんな風に声をかけてくる。 「はい、大丈夫です。僕はなんでも食べられます!」 「良かったあ。あ、チーズとかはもちろん平気だよね。エルフ族のマーサおばさんに貰ったチーズの詰め合わせがあったはず! あとは、これこれ、鯖の水煮缶~」 鼻歌まじりにツマミを用意するハルカと楽しく会話をしながら、シルヴィーの妄想は止まらなかった。 ああ、新婚さんみたいだ。
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