お引越し

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イミテリアル構想とは何か。 青山ハルカが誕生する400年ほど前。大陸では先進国を中心に、異世界に暮らす異種族との交流が徐々にはじまっていた。 この当時、()()国は、ギリギリ先進国の仲間入りをしたか、いやもう少しか。という位置づけにあり、目立ちたがり屋の政治家たちを中心に、声高らかにあがったのが、総じて異世界交流(これ)だった。 「他国に遅れをとるなかれ! いまこそ開国すべきときです!」 「異種族との国交は、我が国に高度経済成長期をもたらすでしょう!」 「ボーダレスな異世界感覚を養うことで、我々は胸を張って、先進国ですっ、と名乗れるのです!」 これといった根拠はなかったが、世論もよくわからないまま、それを後押しする形となった結果。 「とりあえずやってみよう」 異世界のことも異種族たちのことも、ほぼ調査することなく、その年の国会で国策として『異世界への開国』が決定、宣言され、『異種族との楽しい共存』を目的とした異世界交流がスタートした。 そして案の定、見切り発車からまもなく、政府は「こんなはずじゃなかった」と頭を抱えることになる。 日の出国の開国宣言を受け、観光気分でやってきた多種多様な異種族たちが、各地で暮らしはじめたが、これまで異種族とは幻想的で霊的な存在(イミテリアル)としか認識していなかった人々。 規格外のパワーやスピードに度肝を抜かれ、魔法やら霊力やら妖力やら、異能の力を目の当たりにして、すっかり恐れ(おのの)いてしまった。 何の対策もないままに異種族を受け入れた政府に対し、各地で責任を追及するデモが起きる。連日、電話回線がパンクするほどの苦情が関係各所に殺到し、開国推進派だった議員は雲隠れした。 責任追及を逃れたい政府は、「特定異種族・共存モデル地区」を制定して、人里離れた辺境の各地に住居を整備、『オール税金免除』の特典をつけて異種族たちを勧誘したのだった。
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