お隣さん

13/18
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
ワインやグラス、ツマミを並べて、ハルカとシルヴィーは並んで座る。 脚の痺れが治まったシルヴィーは、ワインボトルを手にとり「少し冷やしましょう」と、指先から冷気を放ちはじめた。 「へえ、そんなことができるんだ。便利だね」 「凍らせることもできますので、氷が必要なときはいつでも声をかけてください」 「わあ、それはいいね。今年の夏も暑くなりそうだから、急にカキ氷が食べたくなったら、呼ぼうかな」 「ぜひ! 冷気も暖気も除湿もできますので、室内もお好みの温度、湿度に保てます。いつもでご利用ください」 「すごい。エアコンみたいな特技だね」 ポカポカ陽気の午後。 縁側には春の陽射しが燦燦とふりそそいでいる。 「春うららか。いいお天気ですねえ」 リクルートスーツの上着を脱ぎ、シャツの袖をまくり上げたシルヴィーが、太陽の光を浴びている。 その姿をみたハルカは――吸血鬼なのに、太陽の光は大丈夫なのかな――そう思って、またひとつ懐かしい記憶を思い出した。 そういえば、ヴァン爺もへっちゃらだったな。 夏のギラギラした太陽の下、タツ子の畑仕事を毎日のように手伝っていた。 「タツ子さん、このナスは、そろそろ食べごろですよ」 「今日は、トマトを収穫するんだよ」 「わたし、トマトはちょっと苦手なのですが……」 「好き嫌いするんじゃないよ」 「はい……」 そんな具合だったから、孫のシルヴィーも太陽の光が平気なのだろう。もしかしたら、吸血鬼が夜行性だとか、太陽の光が天敵だというのは、ただの迷信なのかもしれないな。 ほど良く冷えたワインが、グラスに注がれた。 「()きお隣さんに」 「幸あらんことを」 ハルカとシルヴィーは、グラスを傾けた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!