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ワインやグラス、ツマミを並べて、ハルカとシルヴィーは並んで座る。
脚の痺れが治まったシルヴィーは、ワインボトルを手にとり「少し冷やしましょう」と、指先から冷気を放ちはじめた。
「へえ、そんなことができるんだ。便利だね」
「凍らせることもできますので、氷が必要なときはいつでも声をかけてください」
「わあ、それはいいね。今年の夏も暑くなりそうだから、急にカキ氷が食べたくなったら、呼ぼうかな」
「ぜひ! 冷気も暖気も除湿もできますので、室内もお好みの温度、湿度に保てます。いつもでご利用ください」
「すごい。エアコンみたいな特技だね」
ポカポカ陽気の午後。
縁側には春の陽射しが燦燦とふりそそいでいる。
「春うららか。いいお天気ですねえ」
リクルートスーツの上着を脱ぎ、シャツの袖をまくり上げたシルヴィーが、太陽の光を浴びている。
その姿をみたハルカは――吸血鬼なのに、太陽の光は大丈夫なのかな――そう思って、またひとつ懐かしい記憶を思い出した。
そういえば、ヴァン爺もへっちゃらだったな。
夏のギラギラした太陽の下、タツ子の畑仕事を毎日のように手伝っていた。
「タツ子さん、このナスは、そろそろ食べごろですよ」
「今日は、トマトを収穫するんだよ」
「わたし、トマトはちょっと苦手なのですが……」
「好き嫌いするんじゃないよ」
「はい……」
そんな具合だったから、孫のシルヴィーも太陽の光が平気なのだろう。もしかしたら、吸血鬼が夜行性だとか、太陽の光が天敵だというのは、ただの迷信なのかもしれないな。
ほど良く冷えたワインが、グラスに注がれた。
「善きお隣さんに」
「幸あらんことを」
ハルカとシルヴィーは、グラスを傾けた。
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