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しばらくして、ボロボロになったコウモリが戻ってきた。
命じられたとおり「何も見ていません」と、目をつぶりながら、恐るおそる垣根から声をかける。
「……ご、ごしゅじん……さまぁ」
「…………」
無視を決め込んだシルヴィーに、コウモリは鳴いて訴えた。
「痛かったですピィ……乱暴ですピィ……いきなりアレはないですよぅぅ…...ピキィ、ピキィィ……」
――ああ、うるさい。ピィ、ピィと耳ざわりなヤツめ。
眉根を寄せたシルヴィーは、ふたたび念を飛ばした。
《ハルカさんの眠りを妨げるな、ピエール。また飛ばされたいのか。つぎは、アノ世の果てまで飛ばすぞ》
ピエールと呼ばれたコウモリは、羽をパタパタさせて浮上すると、主人に念を返す。
《恐れながら、ご主人さま。そろそろ、城にお戻りくださいませ》
《断る》
《そうおっしゃられましても、トランシルヴァーリア領より伯爵様がおいでなりました。さきほどより、ご主人さまとの面会を強く希望されておりまして……》
《もう来たのか。アイツは……》
露骨にイヤな顔をしたシルヴィーが舌打ちする。
《ご主人さまがお戻りになられるのを、今か今かと、伯爵様はかれこれ3時間ほどお待ちになっております。来訪の目的は存じ上げませんが、重要なお話があるのではないでしょうか》
《知るか。それならば、あと3日ほど待たせておけばいい》
《それはちょっと……大変お忙しい御方ですしぃ》
《朕れはもっと忙しい。アイツと話す時間など向こう100年、0.1秒すらないと伝えておけ》
どこが忙しいのかと、ピエールは思った。
午前中からソワソワして、午後になったとたん城を飛び出し、隣家に挨拶に行ったきり、真っ昼間から飲んでばかりいたくせに……
苦労性のコウモリは溜息を吐いた。
しかし、また機嫌を損ねて、念動力で吹っ飛ばされたくない。
そこで、ひとまずワガママな主人の気持ちに寄り添うフリをして、機嫌を取ることにした。
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