お隣さん

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《この不肖ピエール、ご主人さまのお気持ちは十分理解しております。初恋をこじらせ、会えないイライラをつのらせては周囲に当たり散らしてきご主人さまが、ここにきてようやく、妄想の中でしかできなかった『お隣さんごっこ』を卒業されました。晴れて本日より、ハルカ様の『リアルお隣さん』になられましたことは、大変よろこばしく……》 「ピキイィィィィイ~~~ッ」 ご機嫌取りの途中、甲高い悲鳴をあげたピエールが、本日2度目となる空を飛んでいった。 しかしその悲鳴は、シルヴィーの魔力によって遮られる。 古民家には、縁側で顔をしかめる吸血鬼のボソボソとした小声が漏れただけだった。 「まったく煩いな。無礼モノめが……コウモリの分際で、ハルカさんの御名を口にするなど千万年はやい。魔界の果てまで飛んでいくがいい」 すぅー、すぅー、すぅー、ぴぃ…… シルヴィーの膝の上、ハルカはときおり可愛らしい変化をつけながら、引きつづき寝息をたてていた。 なんという至福の時間だろうか。 酔っ払ったハルカに「おい、シルヴィ、膝をかせ」とせがまれ、「ああ、ちょうどいいな」とゴロリとされたときは、ドキドキを通り越して、ギュっ、ギュっと、心臓を揉みしだかれているようだった。 「わたし……まぁだ、まぁだ、呑めるからねえ……ムニャムニャ」 御猪口を握りしめながら、居心地のいい場所を探して頭をグリグリと膝上で動かされたときは、ふたたびの悶絶がシルヴィーを襲った。 ああ、あああ、あああああ!  どうしよう、どうしよう、身も心も、いろんなモノが滾ってしまう!! 耐えねば、耐えねばぁぁぁ! シルヴィーの精神的、肉体的な拷問は、ハルカが居心地の良い場所を見つけて落ち着くまで、つづいたのだった。 そうして耐え忍んだあと、愛しい人の香りに包まれながら、信じられないほどの多幸感に浸っていたとき、あのコウモリがやってきて、「そろそろ城に戻れ」といった。ましてや、彼女の御名を呼ぶとは……不敬にもほどがある。 アレが長年仕えてきたコウモリでなかったら、火焔で丸焼きにして、灰にしていた。 不敬なコウモリを排除したシルヴィーは、静かになった縁側で、眠るハルカの髪を撫でながら、ふたたび幸せな時間にどっぷりと浸かっていった。
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