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下弦の月が浮かぶころ。
火の熾されていない暖炉の前には、上質な革張りのソファーが2脚あった。
鏡面仕上げの遊戯テーブルを挟んで対面する1脚には、優雅に脚を組み、気だるげな表情で片肘を突く男がいる。
男の手には、黒のビショップ。
視線はテーブルの上にあるチェス盤に向いていた。
長い指で駒を弄びながら、
「コイツの使いどころが……いつも難しい」
赤髪の青年が眉をひそめて呟いたとき、城の2階にある遊戯室の窓が音もなく開いた。
夜風といっしょに入り込んできた黒い霧が、ボルドー色の絨毯の上で渦巻きはじめて数秒後、金の髪と瞳を持つ、世にも美しい青年へと姿をかえた。
金の瞳で盤上を見つめた青年があざ笑いながら、向かいのソファーに腰をおろす。
「ウォーレン、貴様は相変わらず聖職者の扱いが苦手そうだな。さて、この局面、どうする?」
「たしかに、毎回、頭を悩ませている。たいした力もないくせに、デカイ顔ばかりしているからな」
ウォーレンと呼ばれた赤髪の青年は顔をあげると、左手にある黒駒を「では、ここに」と盤のマス目に置くと、金の青年シルヴィーへと不満を漏らした。
「ようやく戻ってきた我が主君は、ずいぶんと隣人に御執心のようだ。古き良き同胞のことなど忘れてしまったのかと思いましたよ」
それに応えることなく器用に片眉をあげたシルヴィーは、白のルークを手にとった。
「バット・ビショップだ。下手くそめ」
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