お隣さん

18/21

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
下弦の月が浮かぶころ。 火の熾されていない暖炉の前には、上質な革張りのソファーが2脚あった。 鏡面仕上げの遊戯テーブルを挟んで対面する1脚には、優雅に脚を組み、気だるげな表情で片肘を突く男がいる。 男の手には、黒のビショップ。 視線はテーブルの上にあるチェス盤に向いていた。 長い指で駒を弄びながら、 「コイツの使いどころが……いつも難しい」 赤髪の青年が眉をひそめて(つぶや)いたとき、城の2階にある遊戯室の窓が音もなく開いた。 夜風といっしょに入り込んできた黒い霧が、ボルドー色の絨毯の上で渦巻きはじめて数秒後、金の髪と瞳を持つ、世にも美しい青年へと姿をかえた。 金の瞳で盤上を見つめた青年があざ笑いながら、向かいのソファーに腰をおろす。 「ウォーレン、貴様は相変わらず聖職者(ビショップ)の扱いが苦手そうだな。さて、この局面、どうする?」 「たしかに、毎回、頭を悩ませている。たいした力もないくせに、デカイ顔ばかりしているからな」 ウォーレンと呼ばれた赤髪の青年は顔をあげると、左手にある黒駒を「では、ここに」と盤のマス目に置くと、金の青年シルヴィーへと不満を漏らした。 「ようやく戻ってきた我が主君は、ずいぶんと隣人に御執心のようだ。古き良き同胞のことなど忘れてしまったのかと思いましたよ」 それに応えることなく器用に片眉をあげたシルヴィーは、白のルークを手にとった。 「バット・ビショップだ。下手くそめ」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加