お隣さん

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ウォーレンが指した黒のビショップが、白のルークに弾き飛ばされる。 黒駒が遊戯テーブルの下に転がり落ちていくのを見ながら、ソファーに深く座り直したシルヴィーは、冷めた瞳を側近に向ける。 「同胞? それがどうした? そんなもの、今も昔も必要ない」 「それはまた、ずいぶんと邪魔にされたものだ」 「そうだ。邪魔なんだ。わかったなら、二度と邪魔しにくるな」 「けっこう、けっこう。金の魔性ドラクル公にも、ようやく春が訪れたのですから、側近としては喜ばしい限りです」 笑みを浮かべたウォーレンだったが、ルビーのように赤い瞳を光らせると、 「――そう、じつに喜ばしい」 人差し指と中指をそろえた指先を、スッと左に動かした。 盤上に置かれていた白のルークが、勢いよく吹っ飛んでいき、遊戯室の壁に突き刺さった。 シルヴィーの瞳が、わずらわしそうに細められる。 「やれやれ、気の短いヤツだな」 それを合図に白と黒、合わせて32個の駒が、一斉に室内を乱れ飛んだ。
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