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「このワガママ主君がっ! さっさと魔界に戻ってこいっ! いきなり飛び出しやがって、どこもかしも領地は大騒ぎだ! 自分が何者であるかを忘れたのかっ! 金の魔性・ドラクル公ともあろう者が、眷属、同胞を見捨てる気かっ!」
「ギャンギャン、うるさいなっ! おまえ、耳が聞こえないのか? 戻らないって云っているだろう。おまえも眷属たちも、魔界で好き勝手にすればいい。なんなら、ウォーレン、貴様が新しい主君となって眷属を率いればいいだろう。そうだ、そうしろ、新たな吸血鬼の王の誕生だ。めでたいなっ!」
「馬鹿いってんじゃねえっ! 吸血鬼を統べるのは、始祖であるヴァンキュリア王の血を引く、ドラクル家の直系って、魔暦元年から決まってんだ! わかったら、さっさと帰るぞ。きっかい村には、また遊びにくればいいだろ。そうでなくても、しょっちゅう抜け出して覗き見してたんだから」
「覗き見はもう絶対にできない! 始祖の血に誓った。それから、きっかい村役場のデータベースにも侵入できないからな。おまえも絶対にするなよ! 朕れと盟約を交わしている貴様は、血の制裁の対象になるからな!」
喧々囂々つづいていた主君と側近のやり取りは、シルヴィーの「血の制裁」という言葉で、それこそ重大な局面をむかえることになる。
元々青白い吸血鬼の顔を、さらに蒼白したウォーレンは「嘘だろ……」と震えだす。
始祖の血に誓う『血の誓約』は、吸血鬼にとって最大級の誓約である。
それゆえ約束を違えときの制裁もまた最大級に恐ろしい。
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