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やっつけ感が満載の政策だったが、これが意外にも異種族たちからも、日の出国民からも受けが良かった。
異種族としては、人間たちに気を遣うことなく、のびのびと暮らせるうえに免税という好条件。
日の出国民としても、遠くから異種族たちを見る分には好奇心が勝り、怖いモノ見たさ半分、度胸試し半分という、アミューズメント感覚でモデル地区を訪れることもしばしばあった。
もちろん人間も移住すれば、免税特典を受けられるのだが、さすがに人族の移住希望者は数えるばかりだった。
そうして、イミテリアル構想にすっかり及び腰になった政府は、「日の出国全域において、異種族たちとの共存は可能か、否か」この決定がくだせないままに、アマテラス暦410年以降、およそ200年にわたり『オール税金免除』の特例自治区が継続中なのである。
ちなみに人族の移住希望者には、政府より直々に説明がなされ、国の免責同意書に署名が求められる。
「いかんせん、異能の住民たちが住む集落ですので、火を噴く者や、なんでも凍らせてしまう者がウヨウヨしています。ちょっと危険かもしれませんが、特例自治区での存命中は、年1回の生存報告と3年に1度の継続居住申請をしていただければ、税金を全額免除します」
なかなかどうして署名に勇気が求められるが、同様の説明を受けた祖母のタツ子は、夫に先立たれた35年前、迷いなく署名をした。
「老い先短い人生だろうし、なにせタックスヘイブンだからね」
住民税、固定資産税、所得税、事業税、消費税……ありとあらゆる免税の魅力が、命のリスクを上回ったのだ。
それから30年以上、その地での暮らしを楽しんでいたタツ子。
祖母の晩年をみてきた孫のハルカは、
「わたしもいつか、婆ちゃんみたな暮らしがしてみたい。だって、タックスヘイブンなんて最高じゃない」
祖母の死をきっかけに、同じ理由から移住を決意したのだった。
今春、退職金で購入した小型EVワゴンに荷物を詰め込み、山を越え、谷を越え、のどかな田舎道をすすみ、険しい峠道をすすみ、山奥のさらに山奥にある奥地、特例自治区〖きっかい村〗をめざした。
山桜が美しく咲いている日だった。
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